ゆらぐ蜉蝣文字


第8章 風景とオルゴール
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  【87】 イーハトブの氷霧



8.13.1


「イーハトブの氷霧」は、1923年11月22日(木曜日)付です。

. 春と修羅・初版本

01けさはじつにはじめての凛々しい氷霧だつたから
02みんなはまるめろやなにかまで出して歡迎した

↑たった2行の作品ですが、じつは、こんなに短くなってしまったのは、編集の手違いのためだったようです。

そもそも、「イーハトブの氷霧」「冬と銀河ステーシヨン」の2作品は、編集上の都合で加えられたものです。

洋綴じ本は、ふつう16頁を“1折り”にした束を、いくつか連ね、糸で縫い合わせて製本します。つまり、“1折り”は、表裏に印刷された紙を4枚重ねて中央で折ったものです。

『心象スケッチ 春と修羅』は、本としては珍しく、8頁(紙2枚)が“1折り”なのですが、綴じ方の理屈は同じことです。

そこで、本全体のページ数は、8の倍数になります。

そこで、プロの作るふつうの本では、巻末に頁があまった場合には、広告を入れたり、場合によっては白ページのままにしておく本もあります(お手もとの本で確かめてみてくださいw)
ところが、編集のプロが居なかった自費出版の『春と修羅』の場合には、著者の宮澤賢治も素人ですから、白ページが残ると“もったえない”という意識があったのか‥、本文の詩篇の長さを調整して8ページの倍数にする編集をしたのです。

白ページを生かして、『注文の多い料理店』の広告を入れる、とか、著者の自己紹介でも書いておく、といったことは思いつかなかったようです。。。

著者イコール編集者ですから、編集上の都合は、本文を変えて辻褄を合わせてしまえばよい‥とまぁ、便利と言えば便利なのですが、便利が仇になることもある‥

. 8.1.8 【印刷用原稿】の編成替え ←こちらの《第2段階》の編成替えは、《第1段階》の原稿全部を書き下ろしてみた結果、“詩集”の構想がはっきりしてきたので、全体のページ数を24ページ(8n×3折)増やして拡大したのです。この24ページ分は、新たに作品を掘り起こして清書して加え、巻末も、「自由画検定委員」以下を削って、「一本木野」「鎔岩流」の2篇に差し替えました。

この《第2段階》によって、「mental sketch modified」の副題のある2篇☆、「蠕蟲舞手」、「雲とはんのき」という重要な作品が登場して、たしかに、この増補によって、『春と修羅』は、構想のしっかりした筋のある詩集になったと言えます。

☆(注) もう1篇の副題付き作品「春と修羅」も、《第2段階》以後に加えられたか、大幅な修正を受けたかしています。

こうして、作者は、この増補された【印刷用原稿】を印刷所に渡し、印刷工による各種数字や記号が原稿に記入されました。
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