『心象スケッチ 春と修羅』
□風景とオルゴール
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雪を趣えてきたつめたい風はみねから吹き
野はらの白樺の葉は紅べにや金キンやせはしくゆすれ
北上山地はほのかな幾層の青い縞をつくる
(あれがぼくのしやつだ
青いリンネルの農民シヤツだ)
イーハトブの氷霧
けさはじつにはじめての凛々しい氷霧ひやうむだつたから
みんなはまるめろやなにかまで出して歡迎した
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冬と銀河ステーシヨン
そらにはちりのやうに小鳥がとび
かげらふや青いギリシヤ文字は
せはしく野はらの雪に燃えます
パッセン大街道のひのきからは
凍つたしづくが燦々さんさんと降り
銀河ステーシヨンの遠方シグナルも
けさはまつ赤に澱んでゐます