ゆらぐ蜉蝣文字


第8章 風景とオルゴール
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8.7.10


この「ビクトルカランザの配下」「貧弱カランザの末輩」は、秋枝氏言うところの賢治の“アウトサイダーへの関心”の現れとして登場しているのだと思います。
具体的に言えば、近在の小作農民や貧困な村人たちのシンボル化ですが、“達谷の悪路王”(原体剣舞連)など蝦夷の諸将や、《手宮洞窟》に描かれた半獣の人物、あるいは、「サガレンの古くからの誰か」(鈴谷平原)にも繋がっています。

「夜風太郎の配下と子孫」も、その流れで創作されたキャラクターでしょう。
ただ、「夜風太郎」になると、どこかユーモラスで童話的な余裕が感じられます。やはり、「風野又三郎」へ繋がる中間項のひとつだと思います。

. 春と修羅・初版本

35    (腐植土のみちと天の石墨)
36夜風太郎の配下と子孫とは
37大きな帽子を風にうねらせ
38落葉松のせわしい足なみを
39しきりに馬を急がせるうちに

とこかく、嘉内を思い出させる“馬形の丘”が現れてから、スケッチのふんいきが少し変ってきたような気がします。
黒いひとすじの路が現れ、天は「石墨」のように黒光りし始めました。
「夜風太郎の配下と子孫」は、馬に乗って、「腐植土のみち」を、「しきりに馬を急がせ」ています。

「落葉松[カラマツ]」:画像ファイル:カラマツ林

この【81】節の最初に出した現地写真を見てほしいのですが:⇒8.7.1 七ツ森付近を走る秋田新幹線こまち号、線路の向こう側(北側)に、たしかにカラマツ林があります。

これは、踏査写真7(馬形丘の全景)と同じ“2km地点”で、まさに、賢治のスケッチの場所です!!

8.7.1 の写真は11月ですから、もう落葉していますが、スケッチ「第四梯形」の9月末には、↑画像ファイルのカラマツ林のように黄葉していたと思います。





. 春と修羅・初版本

39しきりに馬を急がせるうちに
40早くも第六梯形の暗いリパライトは
41ハツクニーのやうに刈られてしまひ
42ななめに琥珀の陽も射して
43  《たうたうぼくは一つ勘定をまちがへた
44   第四か第五かをうまくそらからごまかされた》

「第六梯形」は、順序から行くと、“3km地点”で顔を出す“鉢森”になります:踏査写真10,11 「早くも」と言っているのが、車窓に一瞬のあいだだけ現れる感じを表しているかもしれません。
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