ゆらぐ蜉蝣文字


第8章 風景とオルゴール
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《K》 ラグタイムのステップで



【81】 第四梯形



8.7.1


「第四梯形」は、1923年9月30日(日曜)付です。「梯形」は、賢治の時代の算数・幾何の用語で、‘台形’のこと:春と修羅・初版本

10行目に:

. 春と修羅・初版本

「七つ森第一梯形(ていけい)」

という語が現れますが、このスケッチで、「第一梯形」「第二梯形」… と呼ばれているのは、《七ツ森》のひとつひとつの丘です。

「七つ森」は、巻頭作品「屈折率」にも出てきましたが、

秋田新幹線・田沢湖線(当時は橋場線)の小岩井駅と雫石駅の間にある標高250-350m程度の丘の集まりです:地図:七ツ森 画像ファイル:七ツ森

「もり」は、方言(ないし方言古語)で、“やま”のことです。“もり・おか”という地名も、同じ。関東の“大室山”の“むろ”も同じ語源から来ています。もともとは、古代朝鮮語の mori(現代韓国方言で moi) だと言われています。

じつは、《七ツ森》のあたりには、似たような、おわんをかぶせた形の低い山がたくさんあるのですが、地元では、どの7つを《七ツ森》と言うか、昔から決まっていたようです。

橋場線の線路と、秋田街道(国道46号線)の間にある丘のうちの7個で、それぞれ名前がついています。東から西へ順に:

@三手森(見立森)[ミテノモリ] 304m

A三角森[ミカドモリ] ca.290m

B勘十郎森(小鉢森) 316m

C稗糠森[ヒエヌカモリ] ca.250m

D鉢森 343m

E石倉森 ca.290m

F生森[オオモリ] 348.4m

しかし、宮沢賢治は、これを知っていたかというと‥、よく知らなかったのではないかと思います。賢治作品には、短歌でも詩でも、「七つ森」という呼び名はよく出てきますが、個々の山の名前で呼んでいる作品はありません。

このスケッチでは、「第一梯形」… などと番号で呼んでいます。
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