ゆらぐ蜉蝣文字


第1章 春と修羅
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1.4.7


. 春と修羅・初版本
それは、自然が変化したというよりも、作者が正面から向かい風に立ったことによって、自然は、その輝かしい姿を見せてきたのだと思います。

「白い火」「どしどし焚く」「燃え落ちる」──これらは、作者の魂の奥底から突き上げて来る衝動を、表しているようです。

この衝動は、保阪除名事件以来“シベリアの風”に翻弄された一部始終や、保阪との熱く冷たい葛藤のいっさいが、よみがえってきたことによって、作者の内部から燃え立つのかもしれません。

こうして、第3連では、野原は輝かしく躍動的な光景を呈していますが、それは同時に、作者にとって、新しい表現方法の発見でもありました。

 雪は、「沈んでくる」

 雪のしずくは、「燃え落ちる」

こうした表現は、『冬のスケッチ』には無かったと思います。

それは、“流体としての空気”がとらえられたことを意味します。そこから、「気圏の底」という表現が、まもなく生まれます。

「燃える」のは、熱いもの、光るものばかりではありません。‥氷のように冷たくとも、また、たとえ日が差していなくとも、「燃え落ちる」と言ってよいのです。

このように、使い馴らされた日常的な言葉が作っている概念の枠を壊し、脱構築すること──それによって、“名づけえぬもの”が見えてくる展望を、作者はつかんだのだと思います。






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