ゆらぐ蜉蝣文字


第9章 《えぴ》
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9.2.7


(5) 最も古い伝説バージョンでは、二人の友情に感銘を受けたディオニュシオスは、“自分も仲間に入れてくれ”と懇願して、二人に断られる──という落ちが付いています。
  後代のバージョンでも、仲間に入れてくれるよう懇願するのは同様ですが、断られたとは書かれていません。シラー、鈴木、太宰、いずれも、この後代バージョンに同じです。たとえば、太宰では:

「暴君ディオニスは、群衆の背後から二人の様を、まじまじと見つめていたが、やがて静かに二人に近づき、顔をあからめて、こう言った。

 『おまえらの望みは叶ったぞ。おまえらは、わしの心に勝ったのだ。信実とは、決して空虚な妄想ではなかった。どうか、わしをも仲間に入れてくれまいか。どうか、わしの願いを聞き入れて、おまえらの仲間の一人にしてほしい。』

 どっと群衆の間に、歓声が起った。

 『万歳、王様万歳。』」
(走れメロス)

つまり、ハッピーエンドです。

しかし、考えてみれば不自然です。「町を暴君から救うため」に、暗殺を企てたメロス(フィンティアス)が、暗殺を諦めて、独裁者を無二の友情の仲間に加えてしまうというのは。。。。鈴木バージョンのように‥、睨まれただけだった‥反抗的だという疑いが晴れてよかった‥ということなら、解らなくはありませんが、それにしても、虐政は続くことになるでしょう。いや、二人はこれからは「暴君」に協力して虐政を支持してゆくのかな‥??w

賢治と嘉内が、この“終り方”をどう思ったかは分かりませんが。。。 もしかすると、しばしば自筆の文章で“今こそ審判の時”と宣言する嘉内と、正義の味方が最後には悪漢と和解する小説を書く(たとえば、『税務署長の冒険』)賢治とでは、意見が割れたかも……


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