ゆらぐ蜉蝣文字


第8章 風景とオルゴール
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8.14.8


ところで、このへんでようやく舞台の場所がはっきりします。「土澤」という地名が出ましたが、そこで「軽便鉄道」は、岩手軽便鉄道(現・釜石線)しかありません。
8.14.5 に、釜石線の運転席の後ろから撮った写真を出しておきました。遠野方面から来ると、土沢のあたりで平地が広がって、伸びやかな感じになります。このスケッチで列車は、遠野→花巻の方向に走っているような気がします。

「遠方シグナル」のあとで土沢の「市日」の賑わいが見られたところからすれば、「銀河ステーシヨン」は土沢駅になりますけれども、「氷(ザエ)」を流している川(猿ヶ石川)がある(流氷はフィクションですが)のを重視すれば、谷あいを線路と川が並んで走る岩根橋駅が、舞台にふさわしいかもしれません。

. 春と修羅・初版本

25(窓のガラスの氷の羊齒[しだ]は
26 だんだん白い湯氣にかはる)

この2行で、作者が列車の中にいることもはっきりします。窓ガラスの内側に凝結していた氷が、外の気温が上がったのと、陽に照らされたのとで、湯気を出しながら消えていきます。





27パッセン大街道のひのきから
28しづくは燃えていちめんに降り
29はねあがる青い枝や
30紅玉やトパーズまたいろいろのスペクトルや
31もうまるで市塲のやうな盛んな取引です

28行目は、

05凍つたしづくが燦々と降り

と同じ光景ですが、こんどは雫は燃えています。雪や氷から滴り落ちる雫が“燃えている”というイメージは、【4】「丘の眩惑」にもありました:

. 春と修羅・初版本

「笹の雪が
 燃え落ちる、燃え落ちる」

「紅玉(こうぎょく)」は、ルビーのこと。酸化アルミニウム(Al2O3)結晶(コランダム)のうち、紅いものをルビー、青いものをサファイアといいます。

「トパーズ」は、水晶より少し硬いケイ酸塩鉱物(Al2SiO4(F,OH)2)の宝石で、透明、青、黄、…いろいろな色のものがあります:画像ファイル・ルビー、トパーズ
.
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