ゆらぐ蜉蝣文字


第8章 風景とオルゴール
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8.14.3


散文の『若い木霊』には、メッセージの内容まで書かれていますが、詩形の《心象スケッチ》では、そこまでは読者に示されません。

しかし、『若い木霊』で、かたくりの葉の上の「文字」(⇒画像ファイル:カタクリ)が、“鴇いろ”の春の訪れ、《熱く》燃える慾情の季節のメッセージであったのに対応して、

冬の雪野原に現れた「ギリシヤ文字」は、より《冷たく》理知的なメッセージを伝えて来ているように思われます。

『第2集』の・早春の枯木の枝に砕ける風の「楔形文字」(⇒画像ファイル:楔形文字)は、さらに堅い硬質のイメージであり、何か謎めいたメッセージを思わせます。

【76】「雲とはんのき」の「手宮文字」も、この「楔形文字」に近いかもしれません。「手宮文字」は、角の生えた獣、あるいは妖怪の形をしており、そのメッセージは、作者に対する警告であるようでした:8.2.29 手宮文字

【85】「一本木野」の「みどりいろの通信」の場合には、メッセージの内容には作者は関心が無いようですが、やはり自然を通じて《異界》から伝えられて来るメッセージではないかと思います☆:8.11.13 みどりいろの通信

☆(注) 【第7章】「オホーツク挽歌」で、作者が、死んで他界にいるトシからのメッセージを受け取ろうとしていることを重視する論者は、「一本木野」の「みどりいろの通信」にこそ注目すべきだと思うのですが‥(もはやトシ個人にはこだわらず、《異界》からの「通信」に関心を持とうとしている、など)‥、なぜか注目する人がいないのはふしぎです。

自然界を通じて“メッセージ”を受け取るという《異界》観は、『春と修羅』前半の“いやおうなく見せられる《異界》の神秘”→それにより惹起される主体意識の分裂‥という構図から脱して、より理知的統覚的に、環境世界をも、主体的自己をも把握しているように思われます。

. 春と修羅・初版本

04パッセン大街道のひのきからは
05凍つたしづくが燦々と降り
06銀河ステーシヨンの遠方シグナルも
07けさはまつ赤に澱んでゐます

「パッセン大街道」は、のちほど判明しますが、花巻から遠野を経て釜石に至る“釜石街道”で、作者の乗った岩手軽便鉄道(現・JR釜石線)に沿っています。



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