ゆらぐ蜉蝣文字


第7章 オホーツク挽歌
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7.8.11


オオジシギ(ぶどしぎ)は『小岩井農場』「パート七」に出てきましたが:⇒春と修羅:小岩井農場・パート7 3.7.14 画像ファイル:オオジシギ

高空から急降下する時に、尾羽を広げて飛行機の爆音のような音を立てる習性があります。これは、オスの求愛行動なのだそうです:オオジシギの降下

こちらは、漁船の発動機の運転実演ですが、たしかに音が似ているかもしれません:⇒焼玉機関

というよりも‥、賢治の時代には、「ぶどしぎ」のようなけたたましい音を立てる機械は、船の発動機ぐらいしか身近に無かったのではないでしょうか。もう20年あとならば、(日本軍あるいは米軍の)戦闘機の爆音を聞く機会があったでしょうけれども、1920年代では、まだ盛岡の陸軍演習場にも、航空機は無かったと思います。

写真を見ますと、アオシギは「ぶどしぎ」とよく似ていますが、「ぶどしぎ」よりも体形がずんぐりしています。
アオシギ(さわしぎ)は、「ぶどしぎ」のような爆音急降下の習性は無いようです。しかし、「ジェッジェッ」という大きな鳴き声は「ぶどしぎ」と共通しています。

賢治がサハリンの鈴谷平原で見たのがアオシギ(さわしぎ)だったのか、「ぶどしぎ」だったのかは、確証がありませんが(夏季の南サハリンには、両方います):

. 春と修羅・初版本

30 (さはしぎも啼いてゐる
31  たしかさはしぎの發動機だ)

と書いているのは、「ぶどしぎ」と似た「ジェッジェッ」という鳴き声が聞こえた‥‥しかし、爆音急降下までは見ていない──それが、「たしか‥発動機だ」の意味かもしれません☆

☆(注) オオジシギの爆音急降下は、春の繁殖期に見せる行動なので、いずれにせよ8月には見られません。

アオシギ(さわしぎ)は、岩手でも冬には稀に見られたはずですから、賢治は「ぶどしぎ」とアオシギを識別できたかもしれません。だとすれば、サハリンで見たのは、アオシギでしょう。
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