ゆらぐ蜉蝣文字
□第7章 オホーツク挽歌
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7.8.9
. 春と修羅・初版本
20また夢よりもたかくのびた白樺が
21青ぞらにわづかの新葉をつけ
22三稜玻璃にもまれ
白樺は、夢のように天に伸び、先端の葉は、風の「三稜玻璃」に揉まれています☆
☆(注) 22行目は、【印刷用原稿】では、「風の三稜玻璃にもまれ」でした。
なお、「夢よりもたかくのびた」(20行目)は、賢治特有の表現で、‥結果的には、“夢のように非常に高くのびた”と同じ意味になります。
これらの樹々のようすは、垂直に天に伸び上がって敬虔に風に揺れているイトスギ──【第1章】の作品「春と修羅」の "Zypressen" ──を思わせます。
「三稜玻璃[さんりょうはり]」は、プリズムの訳語です。「稜」は、立体図形の辺、かど。「玻璃」は、ガラス、または水晶(石英)です。“三稜のガラス”、ないし“三稜の石英ガラス”、つまりプリズムを表すわけです。
梢を吹き過ぎる風を、プリズムのようなガラスのかけらに喩えているのかもしれません。しかし、シラカバの三角形の葉をプリズムに喩えているようにも思えます。うすいガラス片のような三角形の葉が、高い枝先で風に翻っているようすが、「三稜玻璃に もまれ」なのかもしれません(‘白樺が自分の葉に「もまれ」るのか?!’など、文法に拘りすぎないほうがよいでしょう)。
さて、「三稜玻璃」は、山村暮鳥の詩集『聖三稜玻璃』(1915年)を指しているとする論者もいます。『聖三稜玻璃』から、ちょっと引用してみますと:⇒『聖三稜玻璃』
手
みきはしろがね
ちる葉のきん
かなしみの手をのべ
木を搖(ゆす)る
一本の天(そら)の手
にくしんの秋の手。
樂 園
寂光さんさん
泥まみれ豚
ここにかしこに
蛇からみ
秋冴えて
わが瞳(め)の噴水
いちねん
山羊の角とがり。
模 樣
かくぜん
めぢの外
秋澄み
方角
すでに定まり
大藍色天
電線うなる
電線目をつらぬき。
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