『心象スケッチ 春と修羅』
□オホーツク挽歌
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蜂が一ぴき飛んで行く
琥珀細工の春の器械
蒼い眼をしたすがるです
(私のとこへあらはれたその蜂は
ちやんと抛物線の圖式にしたがひ
さびしい未知へとんでいつた)
チモシイの穂が青くたのしくゆれてゐる
それはたのしくゆれてゐるといつたところで
荘厳ミサや雲環うんくわんとおなじやうに
うれひや悲しみに対立するものではない
だから新らしい蜂がまた一疋飛んできて
ぼくのまはりをとびめぐり
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また茨や灌木にひつかかれた
わたしのすあしを刺すのです
こんなうるんで秋の雲のとぶ日
鈴谷平野の荒さんだ山際の燒け跡に
わたくしはこんなにたのしくすわつてゐる
ほんたうにそれらの燒けたとゞまつが
まつすぐに天に立つて加奈太式に風にゆれ
また夢よりもたかくのびた白樺が
青ぞらにわづかの新葉をつけ
三稜玻璃にもまれ
(うしろの方はまつ青ですよ
クリスマスツクーに使ひたいやうな