ゆらぐ蜉蝣文字


第7章 オホーツク挽歌
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7.6.35


. 春と修羅・初版本

108その背のなだらかな丘陵の鴇いろは
109いちめんのやなぎらんの花だ
110爽やかな苹果青(りんごせい)の草地と
111黒緑とどまつの列

「その背」は、「丘陵」の稜線です。「丘陵」の背が、なだらかなのです。

「鴇いろ」は、鴇(とき)の風切り羽の(裏側の)色と言われますが、薄くてやや紫がかったピンクです:画像ファイル:トキ→鴇色;ヤナギラン

写真を見ると、鴇のはねは、じっさいにはオレンジに近い色ですねw ともかく「鴇いろ」は薄いピンクで、たしかに、ヤナギランの花の色は鴇色に近いです。

ヤナギランは、本州・北海道では亜高山帯から上に生育する草丈0.5-1.5mの多年草で、薄紫色の花をつけます。花弁は、蘭に似たツノがありますが、系統はマツヨイグサの親戚です:⇒尾瀬花図鑑
葉は、シダレヤナギに似ています。

ヤナギランは、山火事の跡などに一面に繁殖して原野を彩るので、本州の高山植物のなかでも人気があります。

サハリンでも、栄浜周辺は、当時、ロシア領時代以来の無計画な山林伐採・火入れで、一面の原野になっていました。そのために、ヤナギランの群落が広がっていたのだと思います。
ヤナギランにしろ、ツツジにしろ、きれいな植物は、人間が自然を痛めつけた場所に生えるのですw

↑詩句の情景に戻りますと、
ヤナギランの赤むらさき色は、青リンゴのような爽やかな薄い緑色の草地と、よく調和しています。

賢治が、ここで「鴇いろ」という言葉を使っているのは、意図がある思います。

【第4章】「原体剣舞連」には、

. 春と修羅:原体剣舞連

06鴇いろのはるの樹液を
07アルペン農の辛酸に投げ
08生せいしののめの草いろの火を
09高原の風とひかりにさヽげ
10菩提樹(まだ)皮と繩とをまとふ
11氣圏の戰士わが朋たちよ

という一節がありました。「鴇いろのはるの樹液」は、山村の少年舞手たちの体内で躍動する血潮を表しています。


 
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