ゆらぐ蜉蝣文字
□第7章 オホーツク挽歌
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7.6.20
鈴木氏も指摘しておられますが、「オホーツク挽歌」と『サガレンと八月』を読み比べると、つぎのように、明らかに同じ場所を舞台にしていると分かる箇所があります:
@「向ふの海が孔雀石いろと暗い藍いろと縞になってゐるその堺のあたりで」(サガレンと八月)
. 春と修羅・初版本
001海面は朝の炭酸のためにすつかり銹びた
002緑青のとこもあれば藍銅鉱(アズライト)のとこもある
003むかふの波のちゞれたあたりはずゐぶんひどい瑠璃液だ
「孔雀石」を粉末にしたものが、岩絵具の「緑青(ろくしょう)」です:画像ファイル:孔雀石→緑青
また、「藍銅鉱」には、「孔雀石」の縞を伴ったものがあることは、すでに述べました:画像ファイル:藍銅鉱
. 春と修羅・初版本
061緑青は水平線までうららかに延び
A「南の岬はいちめんうすい紫いろのやなぎらんの花でちょっと燃えてゐるやうに見えその向ふにはとど松の黒い緑がきれいに綴られて何とも云へず立派でした。」(サガレンと八月)
. 春と修羅・初版本
108その背のなだらかな丘陵の鴇いろは
109いちめんのやなぎらんの花だ
110爽やかな苹果青(りんごせい)の草地と
111黒緑とどまつの列
B「そして、ほんたうに、こんなオホーツク海のなぎさに座って乾いて飛んで来る砂やはまなすのいゝ匂を送って来る風のきれぎれのものがたりを聴いてゐるとほんたうに不思議な気持がするのでした。」
「タネリは云ひながら黒く熟したこけももの間の小さなみちを砂はまに下りて来ました。」(サガレンと八月)
. 春と修羅・初版本
23まつ赤な朝のはまなすの花です
24 ああこれらのするどい花のにほひは
25 もうどうしても 妖精のしわざだ
. 春と修羅・初版本
46なぜならさつきあの熟した黒い實のついた
47まつ青なこけももの上等の敷物(カーペット)と
48おほきな赤いはまばらの花と
49不思議な釣鐘草(ブリーベル)とのなかで
さらに、↓つぎのC,Dの相似も併せるならば、ただ単に舞台が同じだというだけではなく、進んで、「オホーツク挽歌」のスケッチをもとにして『サガレンと八月』が書かれたと、推定してもよさそうです:
C「ただそこから風や草穂のいい性質があなたがたのこころにうつって見えるならどんなにうれしいかしれません。」(サガレンと八月)
. 春と修羅・初版本
004チモシイの穂がこんなにみぢかくなつて
005かはるがはるかぜにふかれてゐる
. 春と修羅・初版本
060わびしい草穂やひかりのもや
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