ゆらぐ蜉蝣文字


第7章 オホーツク挽歌
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7.2.11


. 津軽海峡

「二等甲板の船艙の
 つるつる光る白い壁に
 黒いかつぎのカトリックの尼さんが
 緑の円い瞳をそらに投げて
 竹の編棒をつかってゐる。
 それから水兵服の船員が
 ブラスのてすりを拭いて来る。」

↑これも乗客や船員の姿ですが、今度は「黒いかつぎのカトリックの尼さん」──青い眼の人のようです──が編み物をしている姿を見て、欲情に踊っていた心理を鎮めます。
「かつぎ」は、女性が頭にかぶる布切れ(日本伝統)ですが、ここでは、カトリックの修道女のかぶる黒いヴェールを指しています:画像ファイル:修道女の服装

「甲板」とデッキは同じ意味で、船の各階層の床。賢治が「チークの甲板」「デック」と呼んでいるのは“上部甲板”で、船首から船尾まで続いている広いデッキ。「二等甲板」と言っているのは、おそらくその下のデッキで、二等船室のある階層でしょう。
「船艙(せんそう)」は、 貨物船で,貨物を積み込む区画のこと。しかし、ここでは、貨物室、客室の区別なく、上部甲板の下の船室を指しています。

「つるつる光る白い壁」が、修道女のいる禁欲的な空間を引き立たせています。

「水兵服」は、先ほどの船員と同じ浅葱色のセーラー服:画像ファイル:セーラー服

「ブラス(brass)」は、真鍮(黄銅)のこと。銅と亜鉛の合金。船員が、デッキの手すりを雑巾で拭きながら歩いてきます。これも、作者の先ほどらいの艶かしい心理を払拭する叙景的意味があります。



【65】駒ヶ岳 ヘ
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