ゆらぐ蜉蝣文字


第6章 無声慟哭
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6.4.13


. 春と修羅・初版本

57《おヽ 俊夫てどつちの俊夫》
58《川村》
59やつぱりさうだ
60月光は柏のむれをうきたたせ
61かしははいちめんさらさらと鳴る

柏の木々が、月の光に照らされて浮き立ったように見え、楽しげに、風にさらさらと鳴るようすは、作者が、現実のカシワ林の光景に戻って来たことを、示しています。彼岸的な夢幻のヴェールは、もう見られません。

作者は、ここで、ひとりの生徒に対する特別な感情──教師としてはエコ贔屓と言われかねないそれを、あえて書いているのですが、なぜそんなことを書いたかというと‥おそらく、特定の人に惹かれる感情が、現実の世界に繋ぎとめるということを、書き留めておきたかったのだと思います。つまり、ここには、トシとの死別とはまったく異なる意味での《他者の発見》があるのです。




【62】白い鳥 ヘ
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