ゆらぐ蜉蝣文字


第6章 無声慟哭
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6.1.4


. 春と修羅・初版本

08青い蓴菜(じゆんさい)のもやうのついた
09これらふたつのかけた陶椀に
10おまへがたべるあめゆきをとらうとして
11わたくしはまがつたてつぽうだまのやうに
12このくらいみぞれのなかに飛びだした
13 (あめゆじゆとてちてけんじや)

8行目以降では、「わたくし」は、戸外に飛び出して、庭にいます。「これらふたつのかけた陶椀」(8行目)は、作者が部屋から持参してきた茶碗を、手に持って見ている描写です。

「蓴菜(じゅんさい)」は、スイレンなどと同じように葉を水面に浮かべる水草で、澄んだ淡水の池沼に自生します。若芽は寒天質で被われていて、日本料理の食材になります:画像ファイル:ジュンサイ

ジュンサイの模様は、陶磁器の染付け(白いセトモノに描かれた藍色の模様)にしばしば見られ……るんじゃないかと思ったんですが‥みつからないですね〜.^;) 考察はこちらで⇒:【第9章】【3】《補論》じゅんさい, etc.

「このくらいみぞれのなかに」
(12行目)

「蒼鉛いろの暗い雲」
(14行目)

と言っているように、室内からは「へんにあかるい」と見えた戸外も、じっさいに出て、みぞれの空を眺めると、暗いのです。

. 春と修羅・初版本

11わたくしはまがつたてつぽうだまのやうに
12このくらいみぞれのなかに飛びだした

は、戸外に立っている現在から見た近接過去(現在完了)です。

さて、↓つぎは、A主題提示部です。

「わたくし」は、戸外で、空を見上げています。そして、16-27行で、「わたくし」が、庭に出て、みぞれを取って来るという行動に出た動機が述べられます。この動機と作者の心理が、この作品の主題にほかなりません。

. 春と修羅・初版本

14蒼鉛いろの暗い雲から
15みぞれはびちよびちよ沈んでくる
16ああとし子
17死ぬといふいまごろになつて
18わたくしをいつしやうあかるくするために
19こんなさつぱりした雪のひとわんを
20おまへはわたくしにたのんだのだ
21ありがたうわたくしのけなげないもうとよ
22わたくしもまつすぐにすすんでいくから
23 (あめゆじゆとてちてけんじや)
24はげしいはげしい熱やあえぎのあひだから
25おまへはわたくしにたのんだのだ
26銀河や太陽、氣圏などとよばれたせかいの
27そらからおちた雪のさいごのひとわんを……




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