ゆらぐ蜉蝣文字


第5章 東岩手火山
70ページ/73ページ


5.5.4


さて、この『税務署長の冒険』の「三角山」の場所ですが、花巻の近くならば、“江釣子森(379m)”ではないかと思います:地図:江釣子森、草井山 画像ファイル:江釣子森

江釣子森は、花巻西郊の湯口村と湯本村の間にある山で、見る方向によっては、とんがり帽子の三角に見えます。
地元では、むかしから江釣子森を「三角山」と呼んでいる地域があります。

しかし、湯口村のほうから見ると、馬の背のようにも見えます。つまり:

. 春と修羅・初版本

12緑いろのサラアブレツド

です。

しかし、少なくとも現在では、“江釣子森”は木立に覆われていて、草原の山ではないのです。

江釣子森と瀬川を挟んだ隣にある“草井山(413m)”が、『税務署長の冒険』の「三角山」だという説もあります☆

☆(注) 金子民雄『山と雲の旅』,1979,れんが書房,p.179.

しかし、草井山のほうは線路から遠すぎるように思いますし、やはり現在では木立に覆われています。
「栗鼠と色鉛筆」には:

10たれか三角やまの草を刈つた
11ずゐぶんうまくきれいに刈つた

とありますから、
江釣子森にしろ草井山にしろ、当時ちょうど伐採されて、草の山になっていたのかもしれません。

そう考えるならば、↑「草を刈つた/ずゐぶんうまくきれいに刈つた」は文字通りの草刈りではなく、森林の伐採をそう表現していることになります。
たしかに、少し離れた麓から見れば、バリカンできれいに刈り取ったように見えるでしょう。

12緑いろのサラアブレツド

山を被っていた森林が刈られて、地形の輪郭の線がよく見えるようになったので、馬の形なのではないでしょうか:画像ファイル:サラブレッド

もし江釣子森ならば、作者の歩いている「レール」は、湯口を通っている花巻電鉄の線路になります。
ともかく、どちらにしろ、また、別の山だとしても、「三角山」は、花巻近郊のどれかの山で、作者のいる線路からは少し離れている──早池峰のように遠くではないけれども、すぐ近くではなく、背景の山だと思ってよさそうです。

そういう想定で読みたいと思います。




13 日は白金をくすぼらし
14 一れつ黒い杉の槍

「くすぼらし」は、燻(くすぶ)るの使役形でしょうけれども、どんな意味なのか。

辞書で“くすぶる”を引きますと:

「(1)火がよく燃えずに、煙ばかりが多く出る。くすぼる。『生乾きの枝が―・る』

 (2)すすのために、黒くなる。すすける。くすぼる。『―・った天井』

 (3)家や田舎に引きこもって、目立った活動もしないで過ごす。世にうもれている状態で暮らす。『実家で―・ってる』

 (4)もめごとなどがはっきりした解決をみないままになっていて、再び表面化しそうな状態である。『執行部に対する不満が―・っている』

 (5)地位・境遇などが向上しないままでいる。『平(ひら)で―・っている』」

つまり、原義は‘黒く燃えさせる’、転義は‘不遇・不満な状態’──ということです。
.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ