ゆらぐ蜉蝣文字


第5章 東岩手火山
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5.5.2


. 春と修羅・初版本

01樺の向ふで日はけむる
02つめたい露でレールはすべる
03靴革の料理のためにレールはすべる
04朝のレールを栗鼠は横切る
05横切るとしてたちどまる

出だしは歌謡調のリズムです。5行目までの音節数を並べてみると:

 7・5
 7・7
 5・7・7
 7・7
 7・5

朝もやに陽が差して煙ったようになる・北国の秋の朝を、うきうきしたリズムに乗せて描いています。

作者は、線路を歩いているようです。レールが露で濡れて、作者のはいている革靴では滑りやすくなっています。靴底が滑って、キュッキュッという音を立てます。
革の匂いも立つような気がします。

「靴革の料理」とは、そういうことだと思います☆

☆(注) 【ギトンのお部屋】で扱ったときには、作者は列車に乗っていて、列車の車輪がカーブでレールと摩擦する軋りが、革靴のキュッキュッという音を思わせる──と解しました。そういう読み方もできると思います。

04朝のレールを栗鼠[りす]は横切る
05横切るとしてたちどまる

線路脇の森林からリスが出て来て、作者の前を横切る★‥‥かと思うと、リスは一瞬立ち止まって作者のほうを見上げ、‥また、尾を後ろに流しながら、走って行ってしまいます。

★(注) このリスは、靴革のキュッキュッという音(リスのさえずりのような)に触発された作者の想像ないし創作と考えることもできます。とくに、作者は列車で線路を進行しているとする場合には、立ち止まったリスをゆっくり見ている余裕はないはずですから、リスの描写は多分に想像された場面となります。

06尾は der Herbst
07 日はまつしろにけむりだし
08栗鼠は走りだす

“der Herbst”は、ドイツ語で「秋」。発音は“デァ ヘルプスト”の2音節、“デァ”は定冠詞です。
この発音を、さっとなびいてゆくリスのしっぽの擬態語として使っているのだと思います。

ひょっと立ち止まって、また走り出すリスの可愛げな動作を、うまくとらえています。
しかし、「まっ白に煙りだし」た太陽を背景に走り出すリスは、ただのリスでしょうか?

ギトンには、“秋の妖精”、あるいは“森の神さま”のように思えます。その尾は、褐色〜橙色で、秋の木々の色を予告しています。

10月なかば──岩手でも、まだ紅葉の盛りにはちょっと早いのではないでしょうか?

09 水そばの苹果緑(アツプ[ルグ]リン)と石竹(ピンク)

「水そば」は‘水の傍’ではなくて、植物の“ミゾソバ”ではないかと思います。
ミゾソバは、イヌタデの近縁の雑草で、水田の水路脇などに、小さなピンクの花をつけて群生しています:画像ファイル:ミゾソバ

「アップルグリーン」は、リンゴの青い果実の緑色でしょうか。ミゾソバの葉の濃い色とピンクの花に、「アップルグリンとピンク」という表現はピッタリです。
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