ゆらぐ蜉蝣文字


第5章 東岩手火山
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【57】 栗鼠と色鉛筆





5.5.1


つぎの作品は「栗鼠(りす)と色鉛筆」です。日付は、1922年10月15日(日曜):

. 春と修羅・初版本

01樺の向ふで日はけむる
02つめたい露でレールはすべる
02靴革の料理のためにレールはすべる
03朝のレールを栗鼠は横切る
04横切るとしてたちどまる
05尾は der Herbst
06 日はまつしろにけむりだし
07栗鼠は走りだす

時刻は早朝です。「朝のレール」と言っていますし、「日はけむる」「日はまつしろにけむりだし」は、たちこめた朝もやに日光がそそぎ、チンダル現象を起こして白く光っているようです:

しかし、場所は、どこでしょうか?

01樺の向ふで日はけむる

とありますが、この「樺」は複数に思えるのです。一本の「樺」では、けしきにならないでしょう。数本の「樺」の木立の「向ふ」、つまり林の中が、もやでけぶっている状況ではないでしょうか?‥

「樺」──カバノキ属の樹木には、シラカバのほかに、ダケカンバ、ウダイカンバ、オノオレカンバなどありますが、いずれも、ある程度標高のある場所に生えます。
それが、東北だと平地近くまで下がってきますが、それでも、街中にカバの自然林ができるようなことは、ないのではないでしょうか。

「小岩井農場・パート3」に:

10向ふの畑には白樺もある

とあって、《農場入口》近くにシラカバが生えていましたが、そこの標高は 250メートル程度あります。
花巻の市街地の標高は 75〜80メートル程度です。郊外に行くと‥つまり北上河岸から離れると、100メートル以上になります。

したがって、花巻や盛岡の街中ということは、ちょっと考えにくいのです。(⇒稗貫農学校前の線路敷:岩手軽便鉄道

線路に栗鼠が跳び出して来たことからも、そう言えます。

しかし、他方:

15その早池峰と薬師岳との雲環は

とあって、早池峰山と薬師岳が見えています。
小岩井や雫石方面では、あいだの紫波山塊(箱ヶ森、南昌山など)が邪魔になって、早池峰連山は見えません:画像ファイル:紫波山塊 地図:早池峰山、雫石ほか

↑《七ツ森》の上に上がっても見えないのですから、線路際からでは、なおさらでしょう。

盛岡から早池峰山は見えますが、薬師岳は、よほど高くに上がらないと見えないようです:画像ファイル:早池峰山

早池峰山塊に距離的に近いのは、盛岡と花巻の中間の紫波町付近ですが、手前の山々が邪魔になって、早池峰の頂上が、ちょっと顔を出す程度です。

しかし、花巻周辺ならば、早池峰山も薬師岳も、よく見えます。
西の郊外(広域公園)でも、東の郊外(新花巻駅付近)でも見えます。

けっきょく、線路際から早池峰山と薬師岳が見えるという点から、この《スケッチ》の場所は、花巻近郊のどこか‥ということになります☆

☆(注) 【ギトンのお部屋】では、雫石方面と推定していましたが、考察が不十分でした。ここに訂正します。

そして、「樺」の群生とリスから、街の中ではなく、郊外‥‥たとえば岩手軽便鉄道(現・JR釜石線)沿いが考えられます。
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