ゆらぐ蜉蝣文字


第5章 東岩手火山
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5.3.12


. 春と修羅・初版本

048(柔かな雲の波だ
   〔…〕
052 その質は
053 蛋白石、glass-wool
054 あるひは水酸化礬土の沈澱

「グラスウール」は、ガラス繊維。建物の断熱材などで、現在ではよく知られています:画像ファイル:グラスウール

「水酸化礬土」は、水酸化アルミニウム〔Al(OH)3〕の古い言い方です。
水酸化アルミニウムは、ミョウバンなどのアルミニウム塩の水溶液にアルカリを加えると、もわもわしたコロイド状の白色沈殿として析出します。あるいは、鉱物としては“ギブス石”になります。
いずれにしろ、不定形で柔かいふわふわした白いもののイメージです。

ところで、最近、水酸化アルミニウム・コロイドについては、面白い話題があります:画像ファイル:水酸化礬土

↑画像ファイルの最後に出した北海道・美瑛町にある人工の貯水池なのですが、青白く濁ったふしぎな色をしているので、観光客が来るようになり(笑)、ある写真家の撮った映像はアップル社の壁紙に採用されたそうです。
池の色の原因は、ここに流れ込んでいる湧き水が水酸化アルミニウム・コロイドを含んでいて、微細な粒子が光を散乱するので、水の透過光の青と混ざって、こういうウルトラ・マリンのような半透明な青に見えるということです。

しかし、水酸化アルミニウム・コロイドでふしぎな青色を呈する沼は、わりあい他にもあるような気がします。火山にも多いのではないでしょうか。

賢治が、「水酸化礬土の沈澱」で、そこまで考えていたかどうかは分かりませんが、ひょっとすると、《西岩手火山》の《御釜湖》や《御苗代湖》の水の色を想い出していたかもしれません。

55《じつさいこんなことは稀なのです
56わたくしはもう十何べんも來てゐますが
57こんなにしづかで
58そして暖かなことはなかつたのです
59麓の谷の底よりも
60さつきの九合の小屋よりも
61却つて暖かなくらゐです
62今夜のやうなしづかな晩は
63つめたい空氣は下へ沈んで
64霜さへ降らせ
65暖い空氣は
66上に浮んで來るのです
67これが氣温の逆轉です》


ふたたび生徒に対する説明の会話文です。
すでに賢治は、出だしのところで:

09《こんなことはじつにまれです

と、気温についての説明を始めようとしていたのですが、生徒たちの質問がつぎつぎに寄せられて、説明が中断していました。

どうやら、質問が一段落したので、説明を再開しています。
2000メートルの山頂が、麓よりも「却つて暖かなくらゐ」‥、それは「氣温の逆轉」層が形成されているためだと説明します。
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