ゆらぐ蜉蝣文字


第4章 グランド電柱
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4.18.2


その点で、作者には、何か心境の変化があったと思われますが、

その反面、1月の2篇にあふれ出ていたファンタジックな情感は後退しています:

「七つ森のこっちのひとつが
 水の中よりももつと明るく
 そしてたいへん巨きいのに」
(「屈折率」)

「野はらもはやしも
 ぽしやぽしやしたり黝んだりして
 すこしもあてにならないので」
(「くらかけの雪」)

このような・他の詩人には決して真似のできない賢治特有の詩世界──風景として現れるすべてのものが、作者によって魂を入れられ“活人化”する世界──は、「たび人」では、影をひそめています。

「海坊主ばやし」「雲と山との陰氣」──いずれも、賢治にしては月並みで生彩のとぼしい表現ではないでしょうか?‥

読者としては、あの原色の万華鏡のような《心象》世界が、十全に展開されつつ、かつその中で、作者自身もまた、意欲に燃え希望に満ちた姿を見せてほしいと願うのですが‥、
もしかすると、賢治にとって、この二つの面の両立は、難しいのかもしれません。。


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