ゆらぐ蜉蝣文字


第4章 グランド電柱
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4.14.20


そういえば、「原体剣舞連」には:

. 春と修羅・初版本

29 まつくらくらの二里の洞
30 わたるは夢と黒夜神
31 首は刻まれ漬けられ

とありました。

「二里の洞」は、よくわかりません。“達谷窟(たっこくのいわや)”が、奥行き8kmもあるとは思えませんが、この辺には岩屋が多いですから、石灰岩地ならば自然の長いトンネル(鍾乳洞)が通じているかもしれません。また、そういう伝説があるかもしれません。

「悪路王」あるいは“アテルイ”の関係で、地底に‘未知のトンネル’があるというような伝説がないか探してみたのですが、見当たりません☆。たしか高橋克彦氏★が、推理小説の中で、そんなようなことを‥書いておられた覚えがあるのですが、氏の典拠は不明です。

☆(注) この点は、ギトンとしては調査未了なのです。たとえば、もし「二里の洞」が“アテルイ”のほうの伝説だとしたら、宮沢賢治は「悪路王」を“アテルイ”として、つまり先住民“蝦夷”の首領として考えていたことになりますから、ギトンがここで詩「原体剣舞連」について書いたことは、大きく改めなければならないことになります。。。

★(注) 『火怨 北の耀星アテルイ』(講談社文庫、上下2冊)の著者。

ともかく、

29 まつくらくらの二里の洞

は、中原中也の処女詩集『山羊の歌』にある:

「屋外(やがい)は真ッ闇(くら) 闇(くら)の闇(くら)」
(サーカス)

にも影響を与えているのではないかと思います。

29 まつくらくらの二里の洞
30 わたるは夢と黒夜神

「黒夜神(こくやじん)」は、“黒闇天(こくあんてん)”とも呼ばれ、仏教で、“中夜[真夜中の時間帯]を司り、不吉・災いをもたらす女神”とされます。
『涅槃経』によれば、“つねに姉の‘吉祥天’と行動を共にするが、人々に福を授ける姉とは逆に、災いや不幸をもたらす”。

また、「黒夜神」のサンスクリット原語:カーララートリは、“世界終末の夜”という意味だそうです。

つまり、悪夢のような長い闇黒の洞窟があって、
そこには、“正義の味方”の残虐なしうちを受けた「悪路王」の怨霊が、今もただよい、わざわいを呼び寄せているのです‥


 
秋の夜空 

32アンドロメダもかヾりにゆすれ

「ゆすれ」は、“揺れて”の意味。

アンドロメダ座は、秋の代表的な星座で、
1等星はありませんが、アンドロメダα星は、隣のペガススの星とともに、“秋の四辺形”を天頂に造ります☆

32行目は、おそらく、篝火の火焔の激しさに、天のいちばん高くにある星座さえ揺れている──ということを言っているのだと思います。

☆(注) アンドロメダ座にある“アンドロメダ銀河”(アンドロメダ大星雲 M31)は、肉眼でも見える渦巻銀河として有名です。Wiki によれば:「M31は肉眼で見ることができ、大きさは満月の約5倍である。双眼鏡では、長い楕円形のはっきりした光芒に映る」
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