ゆらぐ蜉蝣文字


第4章 グランド電柱
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4.14.11


. 春と修羅・初版本

03鷄(とり)の黒尾を頭巾[ずきん]にかざり

↑これは、剣舞の踊り手の扮装です。頭に、黒い羽をたくさん付けて踊ります:画像ファイル:原体剣舞

また、↑この写真から分かるように、
「頭巾」は、“赤ずきんちゃん”の“ずきん”──頭にかぶせる袋の形に布を縫ったもの──ではなく、文字通り頭に巻いている布です。

04片刄(かたは)の太刀をひらめかす

↑8人の踊り手が、抜き身の刀をかざして踊ります。

 

06鴇(とき)いろのはるの樹液を
07アルペン農の辛酸に投げ
08生(せい)しののめの草いろの火を
09高原の風とひかりにさヽげ
10菩提樹皮(まだかは)と繩とをまとふ
11氣圏の戰士わが朋(とも)たちよ

作者が剣舞を見たのは初秋ですが、この部分は、早春の季節感で描かれます。“モディファイされたスケッチ”ですから、季節も、じっさいに見た初秋にこだわりません。

「鴇色」は、トキ(鳥)の風切り羽の色で、橙色がかった薄いピンクです:画像ファイル:ときいろ 画像ファイル:ときいろ
「鴇色の春の樹液」は、春を迎えた若者の身体のうちから溢れ出す生命の熱い息吹きを表しています。

「しののめ(東雲)」とは:

「闇から光へと移行する夜明け前に茜色にそまる空を意味する」
(Wikipedia)

「夜が明けようとして東の空が明るくなってきたころ。あけがた。あけぼの」
(デジタル大辞泉)

「東の空がわずかに明るくなる頃。夜明け方。あけぼの」
(大辞林)

つまり、@時刻の意味で、夜明けよりも少し前の時間帯を言う場合と、Aその時刻の空の色を言う場合があるようです。色としては、まだ暗い紫〜赤です。

ここでは主に@ですが、A色・ようすでも、6行目の「鴇いろ」に対応します。

「生しののめ」とは、人の一生の“夜明け前”の時刻、つまり少年の“生”を意味するのでしょうし、同時に、夜明け前の燃えるような東の空に喩えた若いエネルギーの芽生えを暗示しているのでしょう。

「草色の火」は、植物的ですが、やはり早春の季節に、地の底からあふれるように横溢してくる生命のエネルギーでしょう。

「草色」という色には、少年の青い性の芽吹きが感じられます。

雪どけが始まると、もう春を待ちきれないかのように一斉に芽吹く高原の木々のように、少年たちの肌や胸は、うす桃色の「しののめ」の火を燃え立たせるのです☆

☆(注) 童話『種山ヶ原』では、剣舞の舞手の少年が町へ剣舞を見せに行く途中、「赤い提灯が沢山点もされ、達二の兄さんが提灯を持って来て達二と並んで歩きました。兄さんの足が、寒天のやうで、夢のやうな色で、無暗(むやみ)に長いのでした。」と、少年のすらっとした裸脚の美しさが、年少の男の子の目で描かれています。
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