ゆらぐ蜉蝣文字
□第4章 グランド電柱
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4.10.4
. 春と修羅・初版本
01ラリツクスの青いのは
02木の新鮮と神經の性質と兩方からくる
「ラリツクス(Larix)」は、カラマツ属の学名ですが、ここではカラマツのこと。
カラマツの針葉の若葉は、賢治のお気に入りですが、この作品では、
「…青いのは/木の新鮮と神經の性質と兩方からくる」
となっていて、最初から病的な感覚を表現しています。
そして、3行目以下で、走り去ってゆく列車のデッキに、青い顔をして直立する、病的な「紳士」の像が描かれるのです:
. 春と修羅・初版本
03そのとき展望車の藍いろの紳士は
04X型のかけがねのついた帯革をしめ
05すきとほつてまつすぐにたち
06病氣のやうな顔をして
07ひかりの山を見てゐたのだ
この場合には、前の「高原」とは反対に、光る山が病的な思考を増長しているようです。
「藍いろの紳士」「すきとほつてまつすぐにたち」は、…童話『ペンネンネンネンネンネン、ネネムの伝記』のような化け物の世界さえ思わせます。
「紳士」の乗った列車は、進行方向へ向かって吸い込まれてゆくようで、「X型のかけがね」(《印刷用原稿》では筆記体のエックス。バツ形になったのは活字の都合でしょう)は、引っ掛けてひっぱって行く連結器のようです。なにか不吉な不安を感じさせる情景が描かれているのです‥‥
ところで、これが、小岩井農場の《馬トロ》の馭手を見たことから脳裏に浮かんだ回想ないし幻想の《心象》だとすると、
そこには、1〜2週間前の“歩行詩作”の時には書かれなかった《農場》に対する想念が現れているように思うのです‥
また、それ以上に気になるのは、前後のほかの詩との関係です。
なぜなら、「印象」が、小岩井農場でのスケッチだとすると、
「岩手山」から「高級の霧」までの6月27日付4篇、および6月25日付の「風景観察官」は、すべて25日(日曜日)に小岩井農場を訪れて描いたスケッチがもとになっていると思われるからです。
27日は火曜日ですから、賢治は学校の勤務があったはずで、小岩井農場を歩き回って4篇のスケッチを制作することはできなかったはずです。
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