ゆらぐ蜉蝣文字


第4章 グランド電柱
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4.7.2


しかし、

. 春と修羅・初版本

12ホルスタインの群(ぐん)を指導するとき

と書かれているように、このスケッチの乳牛は1頭や2頭ではなさそうです。

ホルスタインを「群(ぐん)」になるほどたくさん飼育しているのは、町の酪農家兼“牛乳屋”ていどの規模ではないかもしれません‥

このスケッチの場所は、花巻ではなく、大きな都会‥たとえば盛岡の近くなのではないか?──ということが考えられます。

‥さて、これ以上の考察は、「高級の霧」までの4篇を見たうえでないと説明できないので、
ここでは、最後の結論だけを言いたいと思いますが:

ギトンが推定するに、この「風景観察官」、そして、「岩手山」「高原」「印象」「高級の霧」の4篇は、6月25日の日曜に《小岩井農場》へ出かけてメモしてきたスケッチだと思うのです。

それでは、どうして「風景観察官」以外の4篇は、6月25日でなく6月27日の日付になっているのか?‥など、問題は多いのですが、ここでそれを詳しく説明することはできません。

のちほど、最後の「高級の霧」を見たあとで、再度この問題をとりあげて論じたいと思います。







01あの林は
02あんまり[緑]青(ろくせう)を盛り過ぎたのだ
03それでも自然ならしかたないが
04また多少プウルキインの現象にもよるやうだが
05も少しそらから橙黄線(たうわうせん)を送つてもらふやうにしたら
06どうだらう

「緑青」は、ここでは顔料(岩絵具)の名前と思われます。成分は銅の錆の“緑青”と同じです。
「緑青」は薄い青緑色の絵具で、孔雀石(マラカイト)を粉砕して造ります:画像ファイル・緑青

「プウルキインの現象」は、「プルキニエ現象」または「プルキニエ・シフト」のことでしょう。
19世紀チェコの生理学者プルキニエ(Jan Evangelista Purkinĕ: 1787-1869)が解明したことから、名付けられました。

人間の眼には2種類の感覚細胞があって、片方は色を感じますが、明るい光にしか反応しません。
もう片方は、わずかな光でも感じ取れるので暗い場所でも働きますが、色を区別できません。

しかも、後者は、波長の短い青い光のほうに感度が高いのです。

そこで、私たちは、暗い場所では、青っぽい物はよく見えるが、赤や黄色は黒ずんでしまってよく見えません。そして視界全体が、プルキニエ・シフトによって青っぽく感じられます。

夜、月明かりのけしきは、昼間の風景と違って幻想的な感じがしますが、これは、プルキニエ現象で青っぽく見えるせいらしいのです。

月そのものは(明るいから青色にシフトしない)黄色く見えるのに、月の光に照らされた地上の景色は、青っぽく見えます。
これはプルキニエ現象──つまり、“目の錯覚”なのです。
夜の光そのものが青いわけではないのです。

月明かりに照らされた風景を、デジカメなどで撮影すると、昼間と同じにしか写りません。目で見ているように青くは写らないのです。

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