ゆらぐ蜉蝣文字
□第4章 グランド電柱
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4.5.4
. 春と修羅・初版本
19黒くおどりはひるまの燈籠(とうろ)
20泥のコロイドその底に
↑↑この2行もちょっと気になります。
黒く踊りを踊っているものは、何でしょう?馬でしょうか?‥
「ひるまの燈籠」が解読の鍵になると思います。
じっさいに、石灯篭が田の畦にあるとは思えません。
水田の泥の底に「ひるまの燈籠」があって、踊っているような表現です。
ギトンは、これは「アンネリダ・タンツエーリン」、つまりユスリカの幼虫の“踊り”だと思います⇒【22】蠕蟲舞手
「ひるまの燈籠」とは:
この時代の灯明は、電球でなくロウソクか油皿だったでしょうから、昼間に灯ろうを点ければ、炎があるのか無いのか判らないような弱々しい光になってしまうでしょう。
しかし、それこそまさに、ユスリカやミミズなどが泥の中でゆらゆら揺れているさまの比喩になっていると思うのです。「泥のコロイド」の底では、微細な虫たちが、ゆらゆらと黒く踊っています。
やはり宮澤賢治は、農学者らしく、水田の泥の中で、稲の生育に重要な役割を果たしている土壌小動物の働きを、この唄のどこかで述べたかったのでしょう。
しかし、ミミズが‥、ユスリカが‥と、あまりはっきり書いてしまうと、都会派の《国柱会》に嫌がられるかもしれませんから、分からないようにそっと紛れ込ませて書いたと思うのです。(これだから、宮沢賢治はやめられませんねえ 笑)
. 春と修羅・初版本
21 (ゆれるゆれるやなぎはゆれる)
22りんと立て立て青い槍の葉
23たれを刺さうの槍ぢやなし
24ひかりの底でいちにち日がな
25泥にならべるくさの列
22,24行目のリズムも、少し変化があります:
7・7 (3・4・3・4) ←22行目
7・5 (3・4・3・2)
7・7 (4・3・4・3) ←24行目
7・5 (3・4・3・2)
これまでの(3・4・4・3)の穏やかに波打つ調子から、行進曲風の快速前進に変っています。
そして、このへんになってくると、内容についても、ただの童謡を越えて掘り下げてみたくなります。
「青い槍の葉」は、ぴんと上に立った稲の葉です。
「たれを刺さうの槍ぢやなし」──軍人や武士に対する農民の自負みたいなものが見えますね。
「ひかりの底☆」「泥」という言葉を、これほど誇り高く使った詩人が、ほかにいたでしょうか?
☆(注) あとで作品「岩手山」のところで述べますが、空の底に澱むもの──という表現は、賢治の場合には決してマイナスのイメージではないのだと思います。
さらに深読みすることも可能です:
泥の中で、天に向かって槍のような穂先を立てている草の列──それは何の比喩、ないしシンボルでしょうか?肥やしをふんだんに入れた夏の田の噎せ返るような匂いとともに、それは非常にエロチックなものを連想させるとだけ述べておきましょう‥‥
「りんと立て立て」──宮澤賢治が、もう50年遅く生まれたら、谷川俊太郎さんのように唄っていたかもしれませんw:ニコニコ会員用 一般用
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