ゆらぐ蜉蝣文字


第3章 小岩井農場
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3.1.5


   【現存テキストと章の構成】

. 春と修羅・初版本
長詩「小岩井農場」は、『春と修羅』《初版本》に掲載された形では、6つの章、591行から成っています:

「パート1」  107行。
「パート2」   44行。
「パート3」   74行。
「パート4」  140行。
「パート7」  132行。
「パート9」   94行。 
 合 計    591行。

各章には、「パート1」☆以下の番号が付いていますが、「パート5・6・8」が欠けています。

☆(注) 《初版本》は縦書きなので、「パート」の番号も漢数字ですが、横書きのこのブックでは、算用数字のほうが見やすいので、草稿類に書かれている章番号も含めて、すべて算用数字に改めました。

「パート5」「パート6」に関しては、これらの章の草稿は残っています。
作者は、草稿の段階では書いてあったこの2つの章を、《印刷用原稿》作成の際に割愛したことがわかります。

そして、《印刷用原稿》と《初版本》では、「パート5」と「パート6」は、表題だけが、括弧書きで、「パート7」の前に置かれています:春と修羅・初版本

「パート8」については、草稿類も現存しないし、《印刷用原稿》・《初版本》には、「パート8」の表題さえなく、直接「パート7」から「パート9」に番号が飛んでいるので、
「パート8」が存在しない理由については、手がかりがありません。

そこで、「パート8」は、下書きが書かれたのか、書かれなかったのか、諸説唱えられているのです。

この点について、詳しい議論は、「パート9」を検討する際に、したいと思いますが、結論だけ先に述べておきますと:

ギトンは、「パート8」にあたる部分の《スケッチ・メモ》は、「小岩井農場」の下書きとしては、まとめられなかったのだと考えます。

ただし、それらのメモからまとめられた作品断片の一部は、詩断片〔堅い瓔珞はまっすぐに下に垂れます〕、および散文断片〔みあげた〕として現存しているのだと考えます:〔堅い瓔珞は…〕 〔みあげた〕

ともかく、「パート4」以後の各章は、行数が多いだけでなく、内容的にも、さまざまな問題を含んでいると言えます。

さて、『春と修羅』《初版本》の大部分の作品は、《印刷用原稿》のみが、危ういところで戦災を免れて残っている状態であり、《印刷用原稿》以前の草稿類は、破棄されて現存しないと考えられます。

「屈折率」から「恋と病熱」までの諸篇については、《印刷用原稿》さえ残っておらず、『冬のスケッチ』断片の一部分によって、それらのもとになった草稿メモの内容を推測できるにすぎません。

しかし、作品「小岩井農場」だけは、比較的多くの草稿類が現存しているのです。

現存する草稿類を、表の形に整理してみると、次のようになります:






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