ゆらぐ蜉蝣文字


第3章 小岩井農場
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3.7.33


しかし、「パート8」になるはずだった断片が利用された作品、あるいは作品の習作は、あってもよいかもしれません‥探してみる価値はあるでしょう。。。

そこで、まず、現存する『小岩井農場』の下書き原稿と同じ時期に(同じ用紙を使って)書かれた作品原稿が無いか探してみますと:

@「〔みあげた〕断片」という散文が、『小岩井農場』の【下書稿】と同じ《10/20(印)イーグル印》☆原稿用紙に書かれて残っています。★

A初版本に収録されなかった詩作品で、『小岩井農場』と同じ 1922.5.21.の日付を持つものがあります:「〔堅い瓔珞はまっすぐに下に垂れます〕」

B「〔堅い瓔珞はまっすぐに下に垂れます〕」と同じ《10/20原稿用紙》◇に書かれた散文作品として、『マグノリアの木』、『インドラの網』、『雁の童子』、『学者アラムハラドの見た着物』などがあります。

☆(注) 用紙種別は、宮沢賢治研究のなかでの通称を《 》で示します。以下同様。『新校本全集』第16巻(上)「草稿通観篇」参照。
『小岩井農場』【下書稿】は、「パート四」末尾と「パート七」にあたる計2枚を除いて、《10/20(印)イーグル印》に書かれています。この用紙は、『冬のスケッチ』に用いられていることや筆跡などから1921年後半から1922年末または1923年初めまで用いられていたと推定されます。/「小岩井農場」【下書稿】のうち2枚、および【清書稿】全部が、《10/20(広)イーグル印》に書かれています。これは《10/20(印)イーグル印》とほぼ同時期に平行して使われた用紙です。

★(注) 《10/20(印)イーグル印》に書かれた他の作品には、「風野又三郎[最初期稿の一部]」「三人兄弟の医者と北守将軍〔散文形〕」「猫の事務所〔初期形〕」「毒蛾」「フランドン農学校の豚〔初期形〕[一部]」がありますが、これらは、内容的に「小岩井農場」とはあまりにも違います。「毒蛾」は、別の取材源が明らかになっています。

◇(注) 《10/20原稿用紙》の使用時期は、《10/20(印)イーグル印》より後で『春と修羅』初版本の印刷用原稿紙よりも前と推定されています。したがって、1922年後半〜1923年ころとなります。この用紙は、多くの童話草稿に使われていますが、ここで関係のありそうな内容のものとして、上記4作品をピックアップしました。

そこで、「〔みあげた〕断片」と「〔堅い瓔珞はまっすぐに下に垂れます〕」については、それぞれ節を立てて【30】【31】で検討したいと思います。

その他の『マグノリアの木』『インドラの網』『雁の童子』『学者アラムハラドの見た着物』など──いわゆる《西域もの》については、「〔みあげた〕断片」の検討の中で扱うことにします。






【30】〔みあげた〕断片
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