ゆらぐ蜉蝣文字


第3章 小岩井農場
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3.7.15


イーハトーブ・ガーデン管理人の nenemu さんによると、「ジェッ、ジェッ、ジャッチャージャッチャー、ゴゴゴゴォゴーゴゴゴゴォゴーとけたたましい羽音は、雷シギとか、ジェットシギという異名がある」そうです:イーハトーブ・ガーデン

賢治は、99行目で、「ぼとしぎのつめたい發動機」と言っています。

「發動機」は、漁船の発動機のことと思われます。賢治の時代の東北地方には、そもそも、騒音を立てる機械は、機関車(音の種類は違います)と船の発動機ぐらいしか無かったのではないでしょうか。まだ自動車は少なく、飛行機はありません。(もう20年あとならば、日本軍や米軍のwwwwww戦闘機の爆音を、いくらでも鑑賞できたでしょうけど(汗)

こちらは、漁船の発動機の運転実演ですが、たしかに音が似ているかもしれません:⇒焼玉機関

90大きく口をあいてビール瓶のやうに鳴り
91灰いろの咽喉の粘膜に風をあて
92めざましく雨を飛んでゐる

長い嘴を開いて飛びながら、凄まじい‘爆音’を立てているのが分かると思います。

76(あの鳥何て云ふす 此處らで)

と言っていますが、
賢治は、老農夫に、小岩井での方言名を聞いただけで、この鳥は、もともと知っていました。
賢治自身は、「ぼとしぎ」と呼んでいます。

80から松の芽の緑玉髄(クリソプレース)
81かけて行く雲のこつちの射手は
82またもつたいらしく銃を構へる

「緑玉髄」(クリソプレーズ)は、玉髄(石英の小結晶が網目状に緻密に集合した鉱物)の一種で、ニッケルを多く含んでいるので、緑色をしています。石英の宝石の中では、紫水晶と並んで最も高価なものだそうです:画像ファイル:緑玉髄

カラマツの若葉:画像ファイル:カラマツ
新緑のカラマツの芽は、「パート3」にも出ていました:3.4.11

69馬車のラツパがきこえてくれば
70ここが一ぺんにスヰツツルになる
71遠くでは鷹がそらを截つてゐるし
72からまつの芽はネクタイピンにほしいくらゐだし
73いま向ふの並樹をくらつと青く走つて行つたのは
74(騎手はわらひ)赤銅の人馬の徽章だ

「パート3」の【下書稿】では、

@鷹が空を切る

Aカラマツの芽は緑の宝石

B疾駆する馬と騎手

の3つが‘ここが天上だという証拠’として挙げられていました。

驚いたことに、この「パート7」にも、同じ3つの証拠が並んでいるのです:

. 春と修羅・初版本

41うしろのつめたく白い空では
42ほんたうの鷹がぶうぶう風を截る ⇒@

80から松の芽の緑玉髄 ⇒A

12 ネー将軍麾下の騎兵の馬が
13 泥に一尺ぐらゐ踏みこんで
14 すぱすぱ渉つて進軍もした ⇒B

しかし、【初版本】では、「パート3」でも「パート7」でも、‘こここそ天上だ’とは、もう言いません。やはり、【下書稿】以後の再考・推敲の過程で、大きな“転回”があったのだと思います。

同時に、「パート3」の老馬「ヘングスト」と、「パート7」の老農夫との会話、この両方が詳しく加筆され、対応するようになっています。

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