『心象スケッチ 春と修羅』
□小岩井農場
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汽車の時間をたづねてみやう
こヽはぐちやぐちやした青い湿地で
もうせんごけも生えてゐる
(そのうすあかい毛もちヾれてゐるし
どこかのがまの生えた沼地を
ネー将軍麾き下の騎兵の馬が
泥に一尺ぐらゐ踏みこんで
すぱすぱ渉つて進軍もした)
雲は白いし農夫はわたしをまつてゐる
またあるきだす(縮れてぎらぎらの雲)
トツパースの雨の高みから
けらを着た女の子がふたりくる
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シベリヤ風に赤いきれをかぶり
まつすぐにいそでやつてくる
(Miss Robin)働きにきてゐるのだ
農夫は富士見の飛脚のやうに
笠をかしげて立つて待ち
白い手甲さへはめてゐる、もう二十米だから
しばらくあるきださないでくれ
じぶんだけせつかく待つてゐても
用がなくてはこまるとおもつて
あんなにぐらぐらゆれるのだ
(青い草穗は去年のだ)
あんなにぐらぐらゆれるのだ