ゆらぐ蜉蝣文字


第2章 真空溶媒
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2.1.12


ところで、青酸は、「アーモンド臭」あるいは「苦扁桃の匂いがする」と、化学の教科書には必ず書いてあるので、アーモンドナッツや杏仁豆腐の匂いがすると思っている人が多いかもしれません。じつは、ギトンもそう思っていました。青酸ガスを発生させて匂いをかぐ実験は、ふつうしませんからねwww

しかし、青酸ガスの「苦扁桃の匂い」というのは、杏仁豆腐やアーモンドの匂いではなくて、オレンジに似た甘酸っぱい匂いなのだそうです。

アーモンド(はたんきょう)は、ウメ、アンズなどと同じバラ科サクラ属の果樹で、ナッツはその仁(たね)です。
しかし、アーモンドには、

(a)「甘扁桃(あめんどう)」(スイート・アーモンド)と

(b)「苦扁桃」(ビター・アーモンド)

の2種類があって、食用ナッツになるのはスイート・アーモンドの仁なのだそうです。

(b)「苦扁桃」のほうは、アミグダリンという青酸化合物を大量に含んでいて、収穫前の果実は甘酸っぱい青酸臭(“苦扁桃臭”:オレンジに似た甘酸っぱい匂い)がします。これは、アミグダリンが分解して青酸ガスを発生させているからです。

「苦扁桃」の実は危険なので、アメリカでは販売が禁止されています。

しかし、(a)スイート・アーモンドのアミグダリンは、早々と分解してベンズアルデヒド〔<カメノコ>−CHO〕に変ってしまうので無害です。

杏仁豆腐やアーモンドナッツ(スイート・アーモンドの仁)の匂いは、青酸ではなく、ベンズアルデヒドの匂いのようです。

アミグダリンは、分解すると、ブドウ糖と青酸とベンズアルデヒドになります。青酸は空気中に逃げてしまい、残ったベンズアルデヒドが、アーモンドナッツ特有の香りをつけている──ということらしいのです。

近種のウメも、未熟な果実はアミグダリンを含んでいますから、「核」をつぶして仁を大量に食べれば青酸中毒します。
しかし、ウメはアミグダリンの含有量が少ないですから、致死量に達するには、未熟な青い梅の実を200個以上食べなければならないそうです(笑)。もちろん、梅干しや梅酒になったものは、青酸ガスはすでに全部抜けてしまっていますから、危険はありません

そういえば、アーモンド(はたんきょう)の花は、リンゴの花に少し似てませんか?
しかし、同じバラ科でも、アーモンド、ウメ、モモなどはサクラ属で、リンゴはリンゴ属です。写真で花を比べてみると、だいぶ違いますね。。
リンゴの花は、なんといっても白っぽくて清楚な感じがします:画像ファイル
桃の花のほうが、ピンクが濃くてアーモンドに似ています。花柄(花と枝をつないでいる茎)が短いので、枝をびっしり覆うように咲くのも、同じです。

ちなみに、桜は花柄が長いので、枝から垂れて咲きます。なので、あんなふうに木全体が花でふくらんで、ボワッ…満開〜って印象になるわけ。

それはともかく、《黄金のリンゴ》の‘幻術'によって、あたりの風景は荒涼としたものに変ってしまいました:

. 春と修羅・初版本

85すつかり荒さんだひるまになつた
86どうだこの天頂の遠いこと
87このものすごいそらのふち

ここにも、賢治特有の「ひるま」のイメージがあります。

天頂は、遥かに「遠く」、高くなり、凄絶な空間を、光がものすごい速さで走って行ってしまうので、あたりは、まっ暗な・すさんだ死の世界となるのです。

少し先(電子ブックの10ページ)に:

178そらの澄明 すべてのごみはみな洗はれて
179ひかりはすこしもとまらない
180だからあんなにまつくらだ

という一節があります。


.
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