『心象スケッチ 春と修羅』

□真空溶媒
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犬も紳士もよくはしつたもんだ
東のそらが苹果林
りんごばやしのあしなみに
いつぱい琥珀をはつてゐる
そこからかすかな苦扁桃
くへんたうの匂がくる
すつかり荒
さんだひるまになつた
どうだこの天頂の遠いこと
このものすごいそらのふち
愉快な雲雀
ひばりもたうに吸ひこまれてしまつた
かあいさうにその無窮遠
むきうゑん
つめたい板の間
にへたばつて
瘠せた肩をぷるぷるしてるにちがひない
もう冗談ではなくなつた


────────


畫かきどものすさまじい幽霊が
すばやくそこらをはせぬけるし
雲はみんなリチウムの紅い焔をあげる
それからけわしいひかりのゆきき
くさはみな褐藻類にかはられた
こここそわびしい雲の焼け野原
風のヂグザグや黄いろの渦
そらがせわしくひるがへる
なんといふとげとげしたさびしさだ
 (どうなさいました 牧師さん)
あんまりせいが高すぎるよ
 (ご病氣ですか


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