ゆらぐ蜉蝣文字


第1章 春と修羅
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【9】 春と修羅





1.9.1


. 春と修羅・初版本
この作品は、『心象スケッチ 春と修羅』の「春と修羅」という章の「春と修羅」という題名の詩ですw

題名の下に、「(mental sketch modified)」と括弧書きで書いてあります。mental sketch は、《心象スケッチ》の英訳(?)‥‥ mantal は、“メンタル・テスト”“メンタル・クリニック”といった言い方からも分かるように、「心」というより、「知能」「頭脳」に近い言葉ですね。emotional(感情的) に対する mental(理知的) なのです。

宮沢賢治は、《心象スケッチ》を mental sketch として理解していたのだとすれば、
《心象スケッチ》を、エモーショナルな“心のスケッチ”として見るのは、大きな誤解だということが分かります。

modified がついていますが‥‥
 のちほど‥もとになったと思われる『冬のスケッチ』断片と、この詩篇を比べてみれば、いかに徹底的にモディファイされているかが分かると思います。

『冬のスケッチ』断片は、かなりの部分が──大部分が?──失われているので、はたして、われわれがいま、見ることのできる断片だけが、詩篇「春と修羅」のネタ断片なのかどうか、こころもとないのですが、‥

『冬のスケッチ』断片のほうにある対応部分は、あちこちに散らばったごくごく断片的な語句にすぎないのです。。。

ですから
かりに、主要なネタは見れているのだとすれば、

作者は、何枚ものスケッチ・メモから着想を得て、そこから自由に詩想を走らせて書いて行ったのだと思います。

じっさい、作詩エネルギーの旺盛な賢治ならば、ごくわずかなスケッチメモからでも、この長さの詩行を、一気に沸き出させることだって、できただろうと思うのです。

ですから、この作品の舞台は必ずしも特定しません。
もとになったスケッチの場所は、作者の勤務先・稗貫農学校(1923年に県立花巻農学校となって移転するより前の)のすぐ裏手にあった花巻城址の周りですが‥

モディファイされた作品は、そうした特定の場所ではなくなっています。むしろ、実在しない場所、作者の想像世界のようにも思えます。

しかし、『冬のスケッチ』断片の全体が、宮澤家と農学校を中心とする花巻周辺──当時の行政区画でいうと、稗貫郡花巻町、花巻川口町、江釣子村、湯口村など──を舞台としていますから、‘舞台はほぼ花巻’と思っておいてよいと思います。

さて、私たちにとっては──たいして詩が分かるわけでもない凡々たる読者の私どもにとっては(笑)──この「春と修羅」という作品はほんとうに難解ですw

ギトンなどは、中学生のときに読んでさっぱり分からなくて──ただ、

「ZYPRESSEN 春のいちれつ」

とかいう言葉が異常に面白くてw

なにがなんだか分からないまま、やみつきになってしまったという、いわくつきの詩篇なのです。

しかし、きょうは、内容を理解するのが──“分からないけどすごい”ではなくて、“等身大に”理解するのが目標ですw

なので、
進め方をいろいろ考えているのですが‥

まずは、説明は最低限にして、とにかく一度ざっと読んで全体を見渡しておきたいと思います。

‥その前に、まず↓↓これを眺めてくださいw
字は読まなくていいです。全体の形を見るのです。
何かの形に見えませんか?(《初版本》は縦書きですから、90°回した形ですが‥)




01心象のはいいろはがねから
02あけびのつるはくもにからまり
03のばらのやぶや腐植の湿地
04いちめんのいちめんの諂曲模様
05(正午の管楽よりもしげく
06 琥珀のかけらがそそぐとき)
07いかりのにがさまた青さ
08四月の氣層のひかりの底を
09唾し はぎしりゆききする
10おれはひとりの修羅なのだ
11(風景はなみだにゆすれ)
12砕ける雲の眼路をかぎり
13 れいらうの天の海には
14  聖玻璃の風が行き交ひ
15   ZYPRESSEN 春のいちれつ
16    くろぐろと光素を吸ひ
17     その暗い脚並からは
18      天山の雪の稜さへひかるのに
19      (かげらふの波と白い偏光)
20      まことのことばはうしなはれ
21     雲はちぎれてそらをとぶ
22    ああかがやきの四月の底を
23   はぎしり燃えてゆききする
24  おれはひとりの修羅なのだ
25  (玉髄の雲がながれて
26   どこで啼くその春の鳥)
27  日輪青くかげろへば
28    修羅は樹林に交響し
29     陥りくらむ天の椀から
30      黒い木の群落が延び
31       その枝はかなしくしげり
32      すべて二重の風景を
33     喪神の森の梢から
34    ひらめいてとびたつからす
35    (気層いよいよすみわたり
36     ひのきもしんと天に立つころ)
38草地の黄金をすぎてくるもの
39ことなくひとのかたちのもの
40けらをまとひおれを見るその農夫
41ほんたうにおれが見えるのか
42まばゆい気圏の海のそこに
43(かなしみは青々ふかく)
44ZYPRESSEN しづかにゆすれ
45鳥はまた青ぞらを截る
46(まことのことばはここになく
47 修羅のなみだはつちにふる)

48あたらしくそらに息つけば
49ほの白く肺はちぢまり
50(このからだそらのみぢんにちらばれ)
51いてふのこずえまたひかり
52ZYPRESSEN いよいよ黒く
53雲の火ばなは降りそそぐ







ギトンは、悪魔かドラキュラが翼を広げた形に見えたのですが(笑)

カラス、あるいは鳥だと言う人もいます。
たしかに、詩の 26,34,45行目に「鳥」や「からす」が出てきます。
縦書きですと、鳥が上に向かって飛び立つ形になります。あるいは『よだかの星』のように、天へ向かってまっすぐに飛んでいくのかもしれません。

ちょうど、翼を広げた鳥の頭〜胴体にあたる部分の詩句が:

25(玉髄の雲がながれて
26 どこで啼くその春の鳥)

になっていますね。

階段のような字下げは、作者が鳥の形にする意図で──あるいは悪魔の形‥(笑)──やっているのではないかと、ギトンも思います。
というのは、《印刷用原稿》では、ほかの詩の字下げは、原稿の升目で行の上のほうを□□□と空けて書いているのに、この詩だけは、行の一番上から書いた後で、‘何字下げる’という意味の数字を、赤クレヨンで書き込んでいるんですね:


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印刷屋さんに分かり易いようにするんならば、あらかじめ□□□を空けたほうがいいに決まってるんでして‥

これは、印刷の直前になってから、字下げを決めて数字を入れたんだと思うんです。。

つまり、各詩行の内容よりも‥
全体の形を鳥にしたいから、字下げをしたんじゃないかと。。。

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