ゆらぐ蜉蝣文字


第1章 春と修羅
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1.18.4


. 春と修羅・初版本

22 よしきりはひつきりなしにやり
23 ひでりはパチパチ降つてくる

「ひでり」は、ここでは文字通り「日照り」で、強い陽射しのことです。

さっきは雨が「ぱちぱち鳴つてゐる」。
今度は、陽射しが「パチパチ降つてくる」。
パラパラ降ってくるお天気雨と、陽射しとは、全然違うものですが、

賢治の心象世界の中では、ほとんどイコールなのだと思います。
どちらも、「パチパチ」と地上の草木を叩いて、真昼の音楽(「正午の管楽」、つまり「琥珀のかけらがそそぐ」)を奏でているのです。

ところで、
「惡魔がでて來てひかる」と、言っていましたが…
この詩は、さきほどの「習作」の・悠々と楽しんでいる雰囲気とは、少し違う感じがしないでしょうか?

何か投げやりな感じがするのです。

「からだを草に投げだせば」

「帽子をとって投げつければ」

「ふんぞりかへれば」

「あくびをすれば」、…

“やけくそ”とは違うかもしれませんが‥

何か、まっすぐには表現できない悲しみを、心の奥に抱えているように見えるのです。

それは、次のスケッチ「おきなぐさ」の‘黒いシャッポの悲しみ'に繋がって行きます……




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