ゆらぐ蜉蝣文字


第1章 春と修羅
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【19】 おきなぐさ





1.19.1


. 春と修羅・初版本
「おきなぐさ」と「かはばた」(川端)は、ひとつの見開きに収まっています。これらは同じ1922年5月17日(水曜)の日付で、真昼、時間もそれほど隔たっていないようです。

. 詩ファイル「おきなぐさ」


   おきなぐさ

01風はそらを吹き
02そのなごりは草をふく
03おきなぐさ冠毛(くわんもう)の質直(しつぢき)
04松とくるみは宙に立ち
05 (どこのくるみの木にも
06  いまみな金(きん)のあかごがぶらさがる)
07ああ黒のしやつぽのかなしさ
08おきなぐさのはなをのせれば
09幾きれうかぶ光酸(くわうさん)の雲




オキナグサの花、ご存知ですか?

昔は、その辺の土手や原っぱにも生えていたそうです。
宮沢賢治の↑この詩も、花巻城址に咲いていたオキナグサを詠んでいるようです。

今は、特別な山(「立入禁止」の立札のある場所か、マニアが秘密にしている奥地w)へ行かなければ見られません。ギトンも、そういう場所でしか見たことがないです‥なにせ絶滅危惧種に指定されてますから… :画像ファイル・オキナグサ

この写真のような可憐な花が4月〜5月に咲きます。黒っぽく見えますが、日に透かすと綺麗な赤い色です。
宮沢賢治は、“赤葡萄酒が黒いのと同じだ”と言っています。

とにかく見た目が超やわらかそう…
茎にも葉にも花びら(じつは蕚[ガク]なのですが)の裏側にも、白い柔らかい毛がふさふさと生えています。

ひとことで言えばケモ耳 c(^^)d
花が散ると、小さな箒のような穂をつけ、やがて綿毛(冠毛)が開いて、風に飛ばされます。
こうして種子と冠毛になるのは、賢治の童話『おきなぐさ』によれば6月。。

童話『おきなぐさ』では、
オキナグサは「すきかい、きらいかい。」
と作者に尋ねられた蟻が、

「大好きです。誰だってあの人をきらいなものはありません。」

と答えています。

気をつけていないと見過ごしてしまいそうな小さな植物ですが
オキナグサの可憐な花は一度見れば忘れられません。
万葉集には

「芝付の御宇良崎なる ねつこぐさ
 相見ずあらば我(あ)れ恋ひめやも」
(14-3508)

 〔芝付きの三浦崎にある根っこ草、もしあなたに出会わなければ私は恋をしなかっただろう〕

という歌があって
この「根っこ草」はオキナグサのことだと言われています。

さて、上の賢治の詩に出てくるオキナグサですが、5月17日という時期からみて、道端か草地に ぎっしりと生えて花をつけているのでしょう。

…いや、今どきは、東北だろうと花巻だろうと、ありえないことです…町のど真ん中の城あとにオキナグサが咲いてるなんて。。。

でも、当時はたくさん生えていたのですね‥‥人の来ない城山だけでなく、次の詩「かはばた」を見ると、瀬川畔の低地にもたくさん咲いています‥

「冠毛」は、タンポポなどの種子についた綿毛のことです。オキナグサの種子も、柔らかな冠毛を付けています(↑画像ファイル参照)

「冠毛の質直」とありますから、一部はすでに花が散って、穂を付けているのかもしれません。

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