ゆらぐ蜉蝣文字
□第4章 グランド電柱
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4.14.17
. 春と修羅・初版本
19肌膚(きふ)を腐植と土にけづらせ
20筋骨はつめたい炭酸に粗び
21月月(つきづき)に日光と風とを焦慮し
22敬虔に年を累(かさ)ねた師父(しふ)たちよ
ここから〔U〕に入ります。
作者は、若々しい舞手たちだけでなく、山村の年経た住民たちを敬意をもって描くことも、忘れていません。
「腐植」は“くろつち”。畑や森林の表土です。
「炭酸」は、二酸化炭素(炭酸ガス)を含んだ水のこと。「筋骨は‥炭酸に粗び」は、二酸化炭素を含んだ雨水によって石灰岩が侵蝕される地質現象を、ちょっと連想させます。骨も石灰岩もカルシウム塩ですから。
ここで作者が呼びかけている「師父たち」は、直接には、剣舞の囃子をしている大人たちのことです。25行目の「‥鼓を鳴らし」に続きます:
23こんや銀河と森とのまつり
24准平原の天末線に
25さらにも強く鼓を鳴らし
26うす月の雲をどよませ
27 Ho! Ho! Ho!
「准平原」と書いていますが、正しい字は「準平原」で、山地が長期にわたって侵食を受けて、ほとんど平地と変らないゆるやかな起伏となった状態。“地形輪廻”の最終段階です。
もっとも、北上山地は、Wikipedia の説明では、準平原より前の老年期地形の段階だそうです。
「天末(てんまつ)線」とは、スカイライン、地平線と同じ。空と陸地の境目の線。宮沢賢治は、よく、この語を使いますが、なぜか、一般にはあまり使われませんね‥。でも、日本のような山の多いジグザグしたスカイラインを“地平線”と呼ぶのは、いまいちじゃないでしょうか。。。
「うす月の雲」は、月にかかった薄雲のことでしょう。
この詩の1行目は「げん月」と言っていましたが、この26行目あたりになると、1917年に上伊手の剣舞を見た9月2日の・満月に薄雲のかかった夜空のほうを思わせますね。。。
1922年8月31日は、どんな天候だったのでしょうか‥
ともかく、剣舞の太鼓のとどろきは、北上山地の“地平線”をふるわせ、月にかかった薄い雲に反響してどよめいています。
「銀河と森とのまつり」は、踊り手の子供たちと、囃子の大人たちが一体となって躍如する祭典なのです。
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