* パロディ *

□市丸誕生日記念 社会人×社会人
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やってみました、SEギンヒツ。
SE=システムエンジニア。2人とも業務アプリの設計者です。








ふと顔を上げると壁掛けの時計が23時50分を指していた。

普段ならば家に帰り、明日に備えて寝る支度を整えている頃。
しかし今日は朝までに仕上げなければならない仕事を片づけている真っ最中で、さすがの日番谷でも一度途切れた集中を再びかき集めるには少し休憩が必要だった。

一度大きく伸びをして、フロアを見渡す。時間も時間なので開発室には自分しかいないが、会議室では仕様固めをしているチームがまだ残っているに違いない。

そろそろ差し入れでもしてやるか、と日番谷は給湯室に向かうと、社員全員を賄うには少し小さめの冷凍庫から買い物袋を取り出して、中身を確認した。1、2、3…うん、多分足りるだろう。

そのまま袋をぶら下げて会議室に向かう途中、横目で見た喫煙室のパーテーション下から、見知ったスーツの長い脚が覗いていた。

一瞬寄って行こうか迷うが、会議室を優先する。素通りし隣のフロアへ向かうと、一か所だけ電気の着くドアをノックした。


「はい!」


深夜だというのにやたら元気な返事にドアを開けると、火のついていない煙草を咥えた阿散井が立っていた。


「お疲れさんです!」

「おぅ、お疲れ。これ差し入れだ」

「わ!アイス!あざーっす!」


袋を受け取り頭を下げる阿荒井の周りに、室内にいた吉良と雛森がクマの出来かけた目を輝かせて寄ってくる。

思った通りリーダーである市丸がいない。さっき喫煙室の向こうにいたことを知らない素振りで、それとなく袋の中から一つ掴んだ。


「市丸の分は冷凍庫に入れておく。戻ったらそう言ってやってくれ」

「はい。ご馳走様です!」

「ああ。あとあまり根詰めるなよ。明日持たねぇぞ」

「はい!」


早速袋から出して齧る三人の会釈を背に部屋を出る。向かうは給湯室…ではなく、先ほど素通りした喫煙室だった。

昔は咥え煙草で仕事をした方が効率が良い、という一部喫煙者の声が認められていたが、禁煙時代の今では数少ない喫煙者が狭いスペースに追いやられていた。
煙草を吸わない日番谷にとっては、全く用のない部屋だったが、市丸はよくここを利用しているので、たまにすれ違うと煙草の苦い香りがした。


「よぉ」


コンコン、とノックと共に部屋を開けると、市丸の煙草の香りに出迎えられる。
混ざった煙草の匂いが苦手な日番谷だが、今日は市丸だけの香りだった。

背の高い椅子に腰掛け、それでも余らせた足を軽く組んだ市丸が、顔を上げた。


「日番谷さん。まだ居ったんや」

「ああ。明日の打ち合わせに手ぶらで行くわけにはいかないからな」

「そっか、大変やね。開発の部屋はまだ誰か居るん?」

「いや、もう俺だけだ」

「そら寂しいなァ。日番谷さんはまだ帰れんの?」

「1時前には上がるつもりだ。お前んとこは?」

「ウチもその辺が限界やろな」

「だな」


軽口を叩きながら側に行く。ふー、と息を吐き、読み込んでいた資料をテーブルに放った市丸の顔の前に、手にしたアイスをぶら下げた。


「食うか?アイツ等に差し入れした残りだけど」

「わ、ええの?頂くわー」


煙草の火を消し、嬉しそうに袋を破く市丸のうしろの時計はジャスト0時。
日番谷は自分の小さな計画が成功したことを確認すると、よし、と内心頷いた。


「じゃあな、頑張れよ」

「あ、待ち」


手渡してしまえば煙草を吸わない日番谷がここにいる理由はなくなってしまう。
長居をして邪魔したらいけない、と離れようとした日番谷の前に、今度は市丸が二つに割ったアイス最中を差し出した。


「はい」

「余るなら冷凍庫に入れておいてやろうか?」


疲れている時は甘いものを欲する。
しかし阿散井のような甘味好きではない市丸に、アイスとはいえ一つ丸々は多いだろうと最中を選んできたのは正解だったらしい。

しかし食べきれないから、という理由ではなかったのか、市丸を首を横に振った。


「ううん。半分こ、な」


日番谷自身の分がなかったことを知っていたのか、市丸はにっこり笑う。
時々かけている銀縁眼鏡を右手で器用に外すと、資料の上に軽く置いた。

アイス最中を食べる市丸から少し離れた椅子に腰掛け(悔しいが市丸の座る椅子だと足が浮いてしまう)、日番谷も渡された袋から一口齧る。
甘くて冷たくてすっきりしてて、なんとなくこいつに似てるかも、と思った日番谷に、市丸が思い出したように言った。


「そういや明日……いや、もう今日やな。今日ボクの誕生日やねん。プレゼント貰ってもうたな」

「へえ、そうかよ。誕生日に午前様とはご苦労さん」


うそぶいた日番谷に、市丸が顔をしかめる。


「うわ、嫌な事言うてくれるねぇ!」

「まぁ俺もお互い様かもな」

「年末は何かとなぁ。あー、帰りたなってきた」

「んじゃ頑張れよ」

「おおきに。日番谷さんも早帰りー」


手を振る市丸を置いて部屋を出ると、自分の体に煙草の匂いが移っていることに気が付いた。

家に帰るまでには落ちないだろうな、と思いつつ手に残ったアイスの袋をゴミ箱に捨てて部屋に戻った。




9月10日 午前0時の出来事。






- オワリ -






ついでを装った些細なプレゼント。
特別なことは出来ないけど満足な日番谷さんでしたv

それにしてもSEギンヒツ、超書きやすい…!
まさか自分の経験がギンヒツに生きるとは思いませんでした(笑)



ご来訪ありがとうございます!

2012/9/10 ユキ☆

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