* パロディ *

□市丸誕生日記念 学生×学生
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甘め日番谷さん。学生パロです。







「おはよー」


風は涼しくなってきたものの直射日光はまだまだ厳しい9月の半ば。
なるべく日陰を選んで歩いていた日番谷の背中をぽんと叩いた市丸が、ひょこりと顔を覗かせた。

よぉ、と片手を上げてそれに応え、自然と隣に並んだ男の少し長い影を眺めながら、内心の動揺を隠して学校までの道のりを歩く。


「今日は早いな」

「うん。たまにははよ行け、って乱菊に追い出されてん。アイツの方が早よ行かなあかんのに、まだ寝巻きでうろついてたんやで!信じられる?」

「……車とはいえ、それで間に合うんだから流石だな」

「保険医だから大丈夫、とか訳わからんこと言うとったで」


乱菊、とはうちの高校の保険医、松本先生の事で、実家より近いという理由で従姉弟の市丸の家に厄介になっているらしい。

1本早い電車に乗る日番谷と、ギリギリに駆け込んで来る市丸の登校が重なることは珍しい。
これも松本先生のお蔭か、と後で礼を言おうと律儀な日番谷はこっそり頬を緩めた。


実は違うクラスの市丸と親しくなったのも、松本のお蔭だった。
保険医の松本と、保険委員の自分と、サボリの市丸。この三人が保健室で出会うのはある意味必然だった。

はじめは市丸の事を男子生徒に人気のある松本目当ての一人かと思っていたが、実は姉弟みたいな従姉弟だったり(騒ぎになるので内緒らしい)、
ただのサボリの常習犯かと思いきや、自分が学年一位だと知った途端、次の試験でいきなり二位に上げてきてしたり顔をする、意外とやる男だったり(元々10番前後にはいたらしい)、
入学して半年、未だクラスに馴染めない自分を「真面目すぎるからや」とクラスにまで来て相手してくれたり(それで友達が出来たんだ)。

構われたり宥められたりと振り回されているうちに、いつの間にかこの男を密かに想うようになっていた。
しかもそれが松本にバレていると知った時は、本気で顔から火を噴いたものだ。


極度の恥ずかしがり屋、かつ同性なこともあり、絶対に事は起こさないと決めている日番谷に、松本はこうして時々手を貸してくれる。

しかも今日は市丸の誕生日。プレゼントなんて大それたことは出来ない日番谷だったが、人もまばらな早朝に出会えたならば、お祝いの言葉ぐらい掛けたくなるのも当然だった。

しかし会話の流れはいつも通り。昨日のサッカー中継の話題に、発売されたばかりのジャンプの話、クラスの出来事に、噂話。
肝心の誕生日の話題は出てこない。…まあ自分の誕生日に話し振るヤツなんていないけど。




「…なぁ」

「ん?」

「つまらんの?」

「…え?」

「だってさっきからキミ、ああ、うん、そうか、の3つしか言うとらんで」

「…え!?」


おめでとう、という言葉一つが言えなくて、そのせいでせっかくの十五分の道のりを、もう半分以上そんな相槌だけで費やしてしまっていた。

市丸に言われて気がついた日番谷は、慌てて言い訳をしようとするがまともな言葉が出て来ない。


「いやそんなんじゃなくて、」

「そっか、いつも1人で学校行っとるんやもんな。ボク邪魔してもうたかな」

「…!」


『おめでとうって言うタイミングを計ってたんだ!』なんて言えるはずがない日番谷は焦った。

しかしこのままでいいわけがない。どうにか取り繕わねば、と、しどろもどろになる日番谷にとうとう市丸はとどめを刺した。


「ほなボク、コンビニ寄ってくわ。また保健室でな」

「市丸!」


明らかに気を使ったと思われる市丸が、バイバイ、と手を振って道を逸れていく。日番谷は慌てて声を掛けるが、どうしたら良いか解らず立ち尽くしてしまう。

誤解させた。
自分が柄にもないことをしようとしたから。
大切な時間を無駄にしたどころか、嫌な思いをさせてしまった。

…いや、祝いの言葉を掛けようとしたこと自体悪くない。
誤解させるような態度を取った自分が悪いのであって、このままなんて絶対に嫌だ。


「っ!」


決意を胸に、コンビニの自動ドアをくぐって消えた市丸の背中目掛けて、日番谷は走った。
学校の行き帰りに寄り道をしてはいけない。なんて小学生みたいな言葉が一瞬頭をよぎるが無視をする。


「いらっしゃいませー」


店員の明るい声に迎えられ、市丸を捜して商品を選ぶ人々の後ろを急ぎ足ですり抜ける。しかしさっき入っていったはずの市丸がいない。
あまり立ち寄らぬコンビニを一周した日番谷は、ようやく棒付きキャンディと昼飯のパンをレジカウンターに置く、見慣れた長身の背中を発見した。
そのまま手近の商品をひとつ掴み、市丸の側に駆け寄ると日番谷は叫んだ。


「これも一緒に!」


後ろに誰も並んでいなかったことが幸し割り込みにはならなかったが、財布からチャージ済みのカードを出していた市丸は突然の乱入者にぎょっとして半歩退く。


「え!?日番谷さん!?」

「850円になりまーす。…ありがとうございましたー!」


驚く市丸の隣で支払った日番谷は、商品の入った袋を持ってさかさか出て行く。
あっけにとられていた市丸は、慌てて小さな背中を追いかけた。


「日番谷さん!」


通学路に戻る直前で細い腕を掴むと、日番谷はくるりと振り向く。そして買ったばかりの袋を差し出した。
どん、と市丸の胸に手が当たり、咄嗟に市丸はそれを受け取る。

そんな市丸に、日番谷はさっきまでの勢いはどこへやら。消え入りそうな声で、だけど今度こそ、精一杯の勇気を言葉にした。


「た、…誕生日、おめでとう。…それ、プレゼントだ」

「え?…あ」


捕まえた腕をすり抜けて急いで戻っていく後姿を呆然と見つめ、次に貰った袋の中身を見る。

市丸の選んだ昼飯のパン3つと、昼休みに食べる予定の棒付きキャンディと、………なんやこれは。
明らかにモノを確認せずに買ったと思われるプレゼントの一つを眺め、初めてくくく、と笑いが零れた。

実は今朝電車を降りて声を掛けたときから、何か反応がおかしい事には気がついていた。
そもそも乱菊に叩き出された時点で何かあるな?とは思っていたのだが、まさかあの仏頂面の下で市丸の誕生日について悶々と考えていたなんて思わなかった。

初めて会った時から思ってたけど、日番谷は実に不器用な子だと思う。
冷静そうに見えて案外思いつめるし、極端から極端へ走るし、見ていて飽きないと言うかハラハラすると言うか…。つまりそんな相手を愛しいと感じているのだが、もう少しこのままでいたい気もする市丸は、その気持ちを笑顔の下に押し隠した。


そそくさと通学路を行く赤い耳の隣にうきうきと戻った市丸は、手にしたモノを日番谷に見えるようにぷらぷら揺する。


「プレゼントおおきに。で、コレは日番谷さんがシてくれるんやろ?」

「は、はぁ?なんだそれ!」

「だって日番谷さんが選んでくれたんやないの。保健室にはベッドもあるしー。今日のお昼休みが楽しみやなぁ」

「何で俺が!自分でしろ!」

「自分でシろだって。いやーん、日番谷さんのえっち〜」

「ば、ばばば馬鹿かお前は!!」


誕生日だからと言って良い雰囲気になるはずもなく。いつも通り、真っ赤な顔を更に赤くした日番谷に朝から怒られる市丸だった。







「ところで、買い物する時はちゃーんと商品見て買わなアカンで?」

「……俺もそう思う」


市丸の細い指に挟まれた耳かきを見やり、日番谷はため息を吐くはめになった。






- オワリ -






書き始めたときとは全然違う話になりました。
つまりあれです。行き当たりばったりってやつですか?いや進化ってことですよね。

最近めっきり甘め・デレ日番谷さん・パロディブームのユキに是非とも温かいお言葉をv
頂けると泣いて喜んで懐きます(笑)



ご来訪ありがとうございます!

2012/9/10 ユキ☆

  Clap
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