* 短編小説 *

□ * あなたはわたしの特別な人 *
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先日ツイッターにて開催されました、市丸さん誕生日お祝い企画『市丸ギンに花束を』に参加させて頂いた時のお話です。
でも市丸さんと花、という部分に意識を集中した結果、全然誕生日に関係ないお話になってしまいました…。申し訳ないです;


何となく市丸が気になる日番谷さん視点。二人はお付き合いしてません。









『隊長すっごく疲れた顔してますよ!?少しは休んでください!』

腰に手を当てて眉を吊り上げた副官に執務室を追い出された俺は、悩んだ挙句久しぶりにばあちゃんの顔を見に行くことにした。
三席だった頃は比較的取れていた休みも、隊長になってからは不定期になってしまい、前回里帰りしたのはいつのことか思い出せない。
でも足は自然とばあちゃんの家に向かっていて、それはきっと時間が止まってしまったような穏やかさのおかげであり、実際町並みに変化がないせいだろう。

ここは、自分と雛森の出身地である『西流魂街1地区潤林安』。80ある地区のうち最も治安が良いこの地区に落とされた自分達は幸運だった。
実際数字が大きな地区ほど治安が悪く、だからと言って生前の行いだけで住む地区が決まるわけでもないというから理不尽だ。
そんな場所に落とされた弱者の生存率は当然低くなるのだが、死神として抜き出た者はそういった過酷な状況を生き抜いた子供の方が多かった。
例えば自分の副官である松本と、幼馴染だという市丸。彼等は『東流魂街62地区花枯』出身だと言っていたし、草鹿と更木はその名の通り『北流魂街79地区草鹿』と『80地区更木』出身。
阿散井や朽木の妹も数字が大きい地区の出と聞いたことがあるぐらい、死神には流魂街出身の者が多くいる。
さらに後半の地域では土地自体も痩せていて、住まいどころか日々食べるものを確保するのも命がけだと言っていたからここの長閑な暮らしとは全く違うものなのだろう。

そんなことをつらつらと考えながら歩いてると、だんだん子供の頃よく遊んだ地域に近付いてきた。
並んだ田畑ではたっぷりと稲をつけた穂が秋風に靡き、鳥が群れをなして空を飛ぶ。まだ青い葉をつけた木々の枝で猫が大きなあくびをして、…やばい、うつ…る、

「ふぁ…ふ」

思わず零れたあくびに浮かんだ涙を拭う。こんな気の抜けた姿は部下にはとても見せられないが、ここは自分の育った場所。たまにはのんびり樹の麓で昼寝なんてするのもいい。
でも今日はばあちゃんの顔を見るのが目的だから、昼寝は次の機会に……そうだ、どうせなら市丸もつれてきてやろう。アイツも俺の育った場所を見てみたいと言っていたし。
何となく次の休みの予定を立てているうちに、ばあちゃん家が遠くに見えてきた。
小さな平屋建ての一軒家に畑と花壇。一本だけ生えた大きな樹も健在で、そういえば雛森と木登りをしてよくばあちゃんを心配させたっけ。

「あ、」

徐々に近付く俺の目に、腰を屈めて花壇の手入れをするばあちゃんの姿が見えてきた。一瞬で側に行き、背後から覗き込めば植え替えをするのか土が見えている箇所がある。
そこの雑草を抜きながら時々腰をとんとんと叩き、慈しむように土に触れるばあちゃん。顔が見えなくても俺の頭にばあちゃんの優しい顔が蘇る。

「ただいま、ばあちゃん」
「おやまぁ。おかえり、冬獅郎」

驚かさないようにそっと声を掛ければ、振り向いたばあちゃんが思い出よりもずっと優しく微笑んでくれた。





「連絡してくれれば甘納豆買っといたのにねぇ」
「いいよ、帰りに買ってくから。あとこれ、瀞霊廷のまんじゅう屋のやつ。皮がしっとりしてて甘すぎなくて美味いんだぜ」
「ありがとね。でもお土産なんていいんだよ」
「俺がばあちゃんと食べたかっただけだから」

そう言うとばあちゃんは嬉しそうに笑って茶を淹れてくれる。多分松本の買ってくる茶葉の方が高いやつなんだと思うけど、ばあちゃんが淹れてくれる茶はそれとはまた違った美味さがあってほっとする。

「あら、美味しいねぇ」
「だろ?あとこっちの煎餅も……、薄焼きだから大丈夫だよな?」

ばあちゃんが喜んでくれたのが嬉しくて他の袋の中身も出す。ばあちゃんでも食べやすい種類を買ってきたつもりだけど大丈夫だろうか…。少し不安になった俺にばあちゃんがこっくりと頷いた。

「ありがとう。冬獅郎は優しいねぇ」
「…んなこたねぇよ。…あ!これさ、仕事仲間が薦めてくれたやつなんだ。仕事サボってうまいもん巡りばっかしてんじゃねぇのってぐらいよく知ってるんだぜ」
「そうなの?」
「ああ。他にも花見のスポットとかよく眠れる樹の場所とかどうでもいいことばっかり詳しくてさ。そんな暇あったら仕事すりゃいいのに、いっつも副官に怒られてる」
「ふふ、楽しそうな人だねぇ」
「っていうか、いい加減なだけだっつの。…ばあちゃん?」

何だか嬉しげなばあちゃんに首を傾げる。そんな俺にばあちゃんは「ごめんね」とおかしそうに謝ってから、

「冬獅郎が人の事をそんな風に話すのを聞いたのは初めてなもんだから、ね」
「え、…んなことは…」

言葉を濁す俺にうん?とばあちゃんが微笑んだ。

「…ちっ」

口ごもった時点で認めたも同然、今更舌打っても後の祭り。確かにばあちゃんの言う通り、俺にとってアイツ…市丸は特別な存在で、他の隊長格とは全然違う。
そばにいればヘラヘラした顔に腹が立つし、年中ウチの隊に入り浸ってないで仕事しろよってイラつくし、そのくせ腕だけは認められてて難敵を任されてもそつなくこなす。
しかもあの減らず口で俺の事を好きだとかなんだとか言う始末…。

「冬獅郎?」
「っ!なんでもねぇ!それより庭の花壇だけど今度は何を植えるんだ?」
「紅花を植えてみようかなと思ってるんだよ」

明らかに話題を変えた俺にそれ以上突っ込むことなく、立ち上がったばあちゃんが小さな種を手に戻ってきた。
紅花。確か濃い橙色の丸い花が咲く、案外背の高い花だった気がする。そう記憶の花を伝えれば「よく覚えてるね」と小さな種をいくつか俺の手の平に乗せてくれた。

「少し持っていくかい?」
「いや、いいよ。俺じゃうまく育てられないと思うし」
「そんなことないよ。秋に植えた紅花は花が咲くまでは長いけど、その分とても綺麗に咲くんだよ」
「へぇ〜」
「それにね、紅花の花言葉は…」






「あ、」
「おかえりー」

白道門を潜ると見知った人物が門に凭れて立っていた。おそらく俺を待っていたんだと思うけど知らん顔して通り過ぎる。

「よ。じゃあな」
「ちょ!待って待って!」

慌てて追いかけてくる市丸と俺を、門番のじ丹坊がハラハラ見守っているので手を上げて応えておく。気にすんな、いつものことだから。

「つかなんでお前がこんなところまで来てるんだよ」
「えっとな、十番隊にいったらキミは臨時休暇だって乱菊が言うとったから」
「あ、そう」

こいつのことだ、俺がいないと知って霊圧を探ったら流魂街にいることがわかった。でも場所柄私用に違いないので門で待ってた、ということなんだと思うけど、この行動、どう考えても。

「ストーカーだな」
「ちょっ!ヒドイこと言わんといて!愛故の行動やから!」
「知ってるか?ストーカーは皆そう言うらしいぜ」

最近覚えた現世の言葉で言ってやれば市丸が心外だとふてくされた。でも少しは自覚があったのかキレが悪い。その様子がおかしくて笑っていると市丸が穏やかに目を細めた。

「なんや、おばあちゃんに会うて元気出たみたいやね」
「まぁな」
「そら良かったなぁ。…ところでさっきから気になっとったんやけど、どしたん?その鉢植え」

俺がぶら下げている袋の中身を市丸が指差す。勿論ただの鉢植えではなく、ばあちゃんから貰った紅花の種が植えられていた。
最初はいらない、と言ったものの結局持ち帰ってきたのは殆ど気紛れだった。
ガキの頃の記憶のかけら。そして殺風景な執務室に彩を。…更に言えば、

「ん?何?」

不意に見上げられてきょとんと首を傾げる市丸になんでもない、と応えれば「変なの」と楽しげに笑う不思議な相手。
そう、市丸は俺にとって不思議な存在だった。側にくれば苛立つのに、顔を見せなければ何をしているのか妙に気になる。長い任務に出払った時は無事な帰還にホッとした。
誰よりも癇に触って、でも誰よりも顔を見ると安心する相手。ばあちゃんの言う通り、こんな風に歯に衣着せぬ物言いが出来るのだって市丸以外にいやしない。
だから、この鉢植えも断りきれずに貰ってきてしまったのかもしれない。

『冬獅郎に特別な人が出来たお祝いに』なんて意味深なもんじゃないけれど、確かにコイツは俺にとって特別な相手だと思うから。

「日番谷さん?」

黙り込んだ俺をいぶかしげに市丸が覗き込む。近ぇよ、と一歩だけ跳んでから振り向かずに提案する。

「流魂街で甘納豆買ってきたんだけど、お前も食うか?」
「わ、ええの?」
「おう。あと前に差し入れで貰ったまんじゅうと煎餅を買ってったらばあちゃんに好評だった」
「ホンマに?良かった〜。あ、今度帰る時には声掛けてや。美味しい干し柿が出来たからお裾分けするわ」
「それはいらね」
「何で!?」
「だって干し柿って不味いじゃねぇか」
「不味くないよ!?美味しいよ!」

慌てて隣に並んでくる市丸に真顔で言ってやれば、あんまりやと項垂れるでかい図体。100年以上生きてるイイ大人の癖に、こういう仕草が妙にハマるから変な奴だ。
でも、こんなやり取りを楽しいと、これからも続けていけたらいいと思う俺はコイツと一緒に過ごしてから少し変わったのかもしれない。

「な、市丸」
「…何?」

干し柿ショックに唇を尖らせていた市丸が、俺の様子にほんの少し身を正した。
ばあちゃんに言われなくても、市丸が俺にとって特別な相手だということを本当は俺も気付いてた。でも言われなければ、こんな風に市丸のことを考えたりしなかったと思う。

「この花さ、来年の初夏に咲くらしいぜ」
「まだまだ先やねぇ」
「ああ。もしちゃんと咲いたら…」
「ん?」
「…いや、ちゃんと咲くようにお前も水やりに来いよな」
「ええ〜。何でボクが…」
「あ?」
「や、何でもありません。…せや、綺麗に咲いたらボクにも一輪くれる?」
「……」

市丸を特別だと思う理由はよく解らないし、もしかしたら気が付かないほうがいいのかもしれない。
でも何となく、秋に種を植えた紅花が初夏に花咲く頃までには何か解っている気がする。そんな予感を抱きながら頷いた。






-オワリ-







お久しぶりですみません!(毎回言ってますね;)

ツイッターの『市丸ギンに花束を』企画は、12人の市丸好き様が参加されたようです^^
その末席に私も参加させて頂いたのですが、もう眼福眼福!素敵な市丸さんとギンヒツを堪能できて幸せでしたv
ツイッターにて上記企画名で検索していただければ素敵な作品にうっとりできちゃいますよv
(企画された方がギンヒツ好き様ですので、CPもギンヒツオンリーです。ご心配なく!^^)

この場にてもう一度言わせて下さい。素敵な企画を催して頂きありがとうございましたv
(そして市丸さん、全然誕生日お祝いしてなくてごめんなさい(汗))


それから紅花の花言葉は『特別な人』だそうですv素敵ですね〜^^




ご来訪ありがとうございました!

プライベッター:2014/9/14
サイト:2014/09/17 ユキ☆


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