* 短編小説 *

□ * もしもいきなりあなたの部屋にいたら… *
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『もしもいきなりあなたの部屋にいたら…バトン』でギンヒツ文に挑戦。
私にしては日番谷さんが甘めです。




 
・ある日、あなた(日番谷さん)が家に帰り、自分の部屋に行くと『市丸』がいました



自分が長期の出張から戻った場合、まず何をするだろうか。

門を通る前に留守番の席官に連絡を入れて、自隊に顔出して、必要ならば一番隊に報告に行って、それが済めば……アイツに蝶のひとつも飛ばすかもしれない。
まぁ実際は隊舎に足を踏み入れる頃には察知した市丸がやって来て「ボクにも知らせてくれたってええやろ」なんて拗ねられたりするのだが。

だからコイツが逆の立場に立った時、こういう状況になるのは別段不思議じゃない。不思議じゃないけど心臓に悪いことこの上ない。


「おかえりー」


今日も隙あらばサボろうとする松本に目を光らせ、隙あらば仕事を紛れ込まそうとする十一番隊をけん制し、隙あらば研究対象にしようとする涅をかわし、隙あらば菓子を袂にねじ込もうとする浮竹を邪険にも出来ず………ともかく山のような事務仕事プラスアルファの疲れを背負って帰ってきてみれば。

ふすまを開けた状態のまま立ち尽くす俺に、してやったりと笑顔を見せるのは二ヶ月ぶりに戻ってきた恋人。
いきなり何だといきり立つよりも、安堵と懐かしさでちょっぴり頬がほころんだ。が、しかしだ。この状況を放っておくには問題がある。

俺は市丸の前に立つと袂に両手を突っ込んで見下ろした。


「…で、何してんだ?俺の部屋で」
「見て解るやろ?キミんこと待ってたんよ」


にへら、と笑って手を取るバカヤロウ相手に先ほどほころんだばかりの頬がさすがに引きつった。


・『市丸』は布団の上に座ってあなた(日番谷さん)を膝の上に座るよう呼んでいるようです



「待ってたんよ、じゃねぇだろ!いつも俺に連絡入れろとか言う癖に、何でお前はソコに座ってんだよ!」


しかも俺の記憶が確かならば、今朝きちんと畳んでいった筈の布団の上に正座なんかしやがって(寝転がってたら叩き出すところだ)

長い付き合い、こいつの理解しがたい行動には慣れたつもりでいた。でも二ヶ月虚討伐に出てたくせに、何の連絡もなくヒトの寝室に不法侵入とはどういうことだ。というかうちの隊の警備は大丈夫なのか。
本気で忍んで来る隊長格相手に警備もなにもあったもんじゃないのは解りつつも、俺は痛む額に手を当てた。


「ふふ。キミんこと驚かせよぉ思て」
「…そうかよ。んじゃ作戦成功だな」


悪びれない相手にはため息しか出てこない。今日一日分の疲れ以上に重いため息もなんのその、市丸がおもむろに俺の腕を引っ張った。
そのままひざの上に座らされ、後ろから強く抱きしめられる。


座った人↓
・あなた(日番谷さん)を優しく抱きしめて、頭を撫でてきました


座らなかった人↓
・あなた(日番谷さん)の腕を引っ張り、無理矢理座らせました。そして離さないように抱きしめました



「うわ!」
「しかもキミが寂しがってくれとったなんて嬉しいわ」
「は、はぁ!?俺は別に寂しいなんて、」
「ホンマは連絡しとうてたまらんかったんやで。でも乱菊が言うとったんや。会えない時間が愛を育てるんやって。せやからボク我慢したんよ」
「…………」
「二ヶ月耐えた甲斐あったわぁ」


寂しくなかった、とは言わない。正直言って毎日気になってた。ちらちら神機を見ては松本に笑われたりもした。
でもそれは隊長が出張って行くほどの案件、そんな簡単に済む筈がないから連絡がないのも仕方ないって自分自身に言い聞かせてた。
だから市丸が帰ってきたら、今度は俺が先に隊舎に出向いてやろうと思ってたのに。ねぎらいの一つも掛けてやろうと思ってたのに!


(こ、この男は…!)


驚かせたかったという理由で二ヶ月放置されていたと解った今、素直に「おかえり」なんざ言うバカがどこにいる!?


「離せ!このバカ狐!」
「えー!久しぶりの日番谷さんなのにっ」
「うるせぇ!松本の口車に乗せられやがって……って、何だよこれ…」


膝の上で暴れる俺を押さえつけた腕に走る5センチ程の傷に目を瞠る。慌てて隠す手を取って見つめれば、とぼけ損ねた市丸が少し早口に言い訳を始めた。


「ちょっとしくじってもうてん。大したことあらへんよ」
「そういう問題じゃないだろ!?何で四番隊に寄って来ねぇんだよ」


こんな傷、四番隊ならあっという間に治してくれる。それがそのままってことは戻った足で来たということ。
それを裏付けるようにいつも流暢に喋る男が歯切れ悪く目を逸らした。


「だって帰ってきたばっかやし…。早ぅ日番谷さんに会いたかったんや」
「会いたかったって…、お前なぁ」


しょぼん、と俯いた大人相手に『ばかやろう!』と怒鳴りつけることも出来ず、仕方なくもう一度傷に目を落とす。
確かに傷自体長さはあるが深くはない。市丸の言うとおり大したことはないと思う。
しかし虚退治中に負った怪我ならば何が起こるか解らない。相手の能力次第では負った傷から死に至る可能性だってあるのだ。


「とりあえず、さっさと四番隊に行け」
「ええそんなっ」
「そんなじゃねぇだろ!?何かあってからじゃ遅いんだぞ!?」
「……せやな。ごめん」


結局怒鳴りつけた俺に市丸がうな垂れた。

先ほど市丸は驚かせたくて連絡をしなかったと言っていたが、傷を見て後付けの理由だと確信した。
何度か手合わせをしたが、市丸は相当の使い手だ。斬魄刀を用いての手合わせは流石に経験がないものの、少なくとも剣技と鬼道は一級品。
それが何でもアリの命の取り合いで怪我を負ったとなれば、相手の強さは容易に想像がつく。二ヶ月という期間だって、三番隊だからこそ成し遂げられた期間なのかもしれない。

大体考えてみれば、コイツが驚かせたいなんて理由だけで連絡してこないはずがないのに。
尺魂界についた途端吉良の制止を振り切って一目散に飛んできた姿を想像して、俺は照れ隠しと呆れで大仰に息を吐いた。

大切な奴に心配かけたくないとか、ちょっと格好付けたいとか、俺だって男だから解るけど。
こんな風にうぬぼれてしまう程の想いを受け取ってきたのに、騙されかけた自分の余裕のなさに笑ってしまう。

広い胸に背を預け、顔を上げれば情けない顔の市丸と目が合った。


「入院したら見舞いにぐらい行ってやるよ」
「そ、そこまで酷ないと思うで?」
「さぁどうだろうな?この間文献で見たぜ、斬られた傷を放っておいて全身ただれた症例」
「えええっ」
「手足が生えて来たヤツもいたっけな」
「嘘やろ!?」


俺の身体を抱きしめたままイヤイヤする市丸をしっかり脅し、さてと、と立ち上がる。
誰もいなくなった腕の中を少し寂しそうに見た不器用な男に手を差し出して、ニッと笑う。


「役立たずになったらウチで拾ってやるよ」
「そんなん嫌やー!」



怪我の治療をして貰って、放置してきた(に違いない)三番隊に顔を出させて、そしたら一緒にメシでも食って。

明日の朝まで、まだまだ時間はたっぷりある。







-オワリ-





バトンに従って書き始めたのですが、結構早い段階でわが道を行ってしまいました^^;(本当はもっと長いバトンです)

おかげでオトコの部屋に忍び込んで布団の上で待つという、押しかけ女房(いや、ストーカー?)みたいな市丸にΣ

まぁそれも京都弁のアヤシさに比べれば大した問題じゃないかもしれません^^;


そんな状態ですが、久々に完全新規でギンヒツが書けてとっても楽しかったです^^ギンヒツ万歳ヽ(≧▽≦)/


最後までお読み頂きありがとうございました^^


2012/8/27 ユキ☆




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