頂き物
□ケイスケ、う(略)
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「アキラ、本当に大丈夫?」
「大丈夫だ。行って来い…」
昨日の夜から、この会話は何回目だろうか。
アキラが風邪を引いた。
原因はもちろん、ケイスケだ。勘がいい奴ならば、分かってくれることだろう。
「俺、心配だよ!!」
「早くしろ、このままじゃ遅刻するぞ」
「でも「ケイスケ」…」
ケイスケの言葉を遮り、睨み付けた。もし、彼に犬耳が生えていたならばシュンッと垂れ下がっているのが見えるだろう。
ケイスケは沈んだような声で、「いってきます…」と呟き、アキラに背を向けた。
しかし、ケイスケは数歩歩いては、アキラの方を振り向き、また数歩歩いては、振り向き、を繰り返していた。
アキラはその様子をケイスケが見えなくなるまで、見つめていた。
やっとケイスケの姿が見えなくなったところで、部屋へと戻った。
扉が閉まり、鍵を掛ける。
自分一人しかいない部屋は、とても広く見えた。
ケイスケがいない、それだけのことなのに…
(…さみしい)
今の気持ちを言葉に表すと、それだった。
本当はケイスケに傍にいて欲しい。手を握っていてほしい。抱きしめていて欲しい。
我儘を言い始めると、止まらなかった。
ベッドに深く身を沈めると、さっき飲んだ薬が効いてきたのか、すぐに睡魔がやってきた。
「――…-ラ?…アキラ?」
―――――誰だ?
「アキラ」
―――――この声は…ケイスケ?
「アキラ」
―――――なんか落ち着く…あったかい…
再び眠りの世界に入ろうとしたら、違和感に気付いた。
「…っ…ケイスケ?!」
「アキラ…起きたー良かった…」
「良かったじゃないだろ!!!仕事はどうし…」
突然起きて、大きな声を出した所為でグラリと身体が大きく傾いた。
ケイスケは傾いたアキラの身体を、優しく受け止めた。
熱の所為なのか、アキラは力が入らず、ケイスケの胸に身体を預ける形になった。
「アキラ、熱い。それに…」
「それに?」
「なんか魘されてたよ。嫌な夢でも見た?」
「…お前、見たら…忘れた」
「いいよ、アキラ眠って。俺、傍にいるから」
ケイスケの言葉が、まるで魔法の呪文のようにアキラを再び眠りの世界へと誘った。
アキラを布団に寝かせ、ケイスケはアキラの寝顔を見つめた。