主傑作戯言

□桜と共に君へと続く贈る唄
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昼間はあんなに暖かだったのに、まだ夜はこんなにも冷える。

太陽を透かし、雪のように降りしきっていた花びらも、今の桜並木では気持ち悪い程違う姿を晒していた。

闇に、月光で朧気に浮き上がりながらその最期の命を散らせる。

死に際だからこそ美しいなんて、よく言ったもんだ。



「いーたん」



戯言を紡ぐには、吐き気がするほど心地好い場所。



「なぁ、いーたんてば」



儚げな命を見つめながら、思考を巡らす。

こんな絶好な環境、何が邪魔するものがある?



「いーたん、無視すんな」

「煩い零崎、僕の本業邪魔しないでくれる?」

「本業?かはは、戯言遣いは恋人もほったらかしで平気なのか」



そう、一つだけ煩わしいとすればこの人間失格くらいだろう。

曲が曲がしい右頬の刺青が、暗闇に不自然に鮮明に見える。

こいつが笑えば、尚歪んで。



「だから煩い、戯言遣いが戯言紡いで何が悪い」

「違う、今は俺と夜桜見てデートしてんだろ?そしたら戯言なんかいらねぇ」



な?と首を傾げて刺青を歪ませるこいつには、寒気がするくらい僕は逆らえない。



それが、惚れた弱みなら腹が立つけどね。



「参ったよ零崎、分かった。君の夜桜見物、付き合ってやるよ」

「夜桜デートっつってくんねぇかな?ま、良いけどよ」



デートなんて、こっぱ恥ずかしくて言えるわけがないだろう。

それを、何の気なしに言うんだからこの人間失格はどうかしてる。

だが、それを嬉しく思う僕はもっと狂ってるんだろう、きっと。

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