*本棚*

□『その一言の安心を、俺に。』
2ページ/5ページ

〜その一言の安心を、俺に。〜



 ヒロさんの行動がよくわからない。

草間野分、大学医学部一年。彼には付き合って数ヶ月になる恋人がいる。
「ヒロさん! お待たせしました!」
「……別に。今来たとこだし。」
秋の訪れが感じられる肌寒い日。待ち合わせ場所に現れた野分を見て弘樹はいつも同じ言葉で返すが、本当は十五分も前からここに立っていたことを、野分は知ってる。
「でもお待たせしたことに変わりないですから。どこか店入りましょうか。寒いですし。ヒロさんどこか行きたい店ありますか?」
「そーだな。どっか近いとこがいいな。」
表情には出さないが、相当身体が冷えていたらしい弘樹は無意識に両手を擦り合わせながらそう言った。そこまで待たせてしまった罪悪感を感じながらも、そんな彼の仕草が可愛くて仕方ない。
「それじゃあこの先に喫茶店あるんで、そこにしましょうか。」
「ん。」
ほんの少し野分が先に立って歩き始める。弘樹が赤くなった鼻を啜った。
「すごい寒そうですね。手も赤くなってますよ。」
「……っ大丈夫だッ!」
両手を胸の前で擦り合わせる弘樹のその手を包み込むように握ると、それを振り払うように弘樹が野分の前に出た。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ