*イベント小説*

□『君のいないクリスマス』
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〜君のいないクリスマス〜

「はぁ……」
 自分以外誰もいない部屋で、上條弘樹は思わず溜息を吐いた。
 デジタルの時計が指し示す時刻はすでに深夜12時を20分も過ぎている。僅かに開いたカーテンの隙間から覗く外の景色は、まさに理想のクリスマス。漆黒の空にはこの都会では珍しいほど星が輝き、さらに微かにではあるが雪まで降り出している。
 しかし、一緒に過ごす相手がいなければそんな楽しいクリスマス色さえも寂しさに繋がる。それにクリスマスはもう終わった。つい20分前に。だからもう今日は12月26日だ。
(野分、帰って来れないのか……)
弘樹の恋人、草間野分は研修医だ。実際にその生活を目にして思ったが、医者の不摂生とはよく言ったもので、長いときは10日以上家に帰れないことだってある。野分を仕事へ送り出したのは5日前。その時はクリスマスには必ず帰ると言っていたが、そのあと届いた行変え出来ていないメールには謝罪の言葉といつ帰れるかわからないと書かれていた。返信のメールでは強がって、大丈夫だ、とか、仕事を頑張るように、と書いて送ったが、やはりそれでは寂しさは拭えない。
 野分が帰ってくるのを待つつもりで開けたワインはもう一瓶カラになっているし、冷蔵庫で見つけたシャンパンも半分近くまで減っている。本を読み、それとアルコールで幾分誤魔化すことが出来ていたが、時計を見て時刻を確認してしまった今となってはもうそんな誤魔化しは効き目がない。
「野分……」
 リビングのテーブルに顔を伏せ、じわりとしみ出してきた涙を堪える。会えない事なんていつものことなのに、今日に限ってこんなに寂しさが強いのはクリスマスのせいだ。街中のイルミネーションや行き交う人々の幸せそうな笑顔が、一層寂しさを引き立てる。
 自分のサンタはいつ自分の元へ来てくれるのか、と。
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