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□名前
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その日、キョンは必死にパソコンに向かっていた。
昨日行われたSOS団会議という名ばかりの会議の議事録を作成するためだ。
会議のほとんどは、ハルヒが無茶な要望を提案し、朝比奈ミクルがそれに怯え、長門は黙って本を読み続け、古泉が笑顔でそれに賛同し、キョンが責任を持って却下するという、堂々巡りのもの。
結局決まったことといえば、今度はどこにでかけるかということぐらいで、議事録も何もあったものではないのだが。
「ハルヒのやつ・・・」
帰り際に言われたのだ。「明日中に議事録作っておいてね。もし変なもの作ったら許さないわよ!」と。
従う理由もないはずなのだが、従ってしまうのは何故か。
それも、ハルヒの力なのかと思わず考えなくもない。
「よし、これで大体は完成だな・・・・あとは・・・・」
いったん印刷した書類をチェックし、そして修正箇所を直そうと再度パソコンに向かったその時、部室の扉が開けられた。
「・・・・おや?貴方だけですか?」
「悪いか」
入ってきたのは古泉。
いつもの笑顔で、いつもどおりの飄々とした態度で。
「いえ、涼宮さんはともかくとして、長門さんや朝比奈さんがいないのは珍しいなと思いまして」
「・・・・朝比奈さんは用事があるとかで帰ったぞ。お茶だけは入れていってくれたが。長門は・・・・どっかにいるんじゃないのか?」
言われて気づいたキョンだが、確かに自分と古泉だけという状況は珍しいかもしれないと。
だからといって何も問題はないのだが。
机の上に荷物を置いて、キョンのほうへとやってくる古泉。
「いい天気ですねぇ」
「・・・・・まぁな」
パソコンの場所からだと、窓に背を向ける形になるので外は見えない。
けれど、いい天気だということぐらいは分かる。
外を眺めながら大きく深呼吸をしていた古泉の視線が、ふとある一点で止まる。
「これ、昨日の議事録ですか?」
「・・・・あ?ああ」
マウスの横においていた紙に気づいた古泉の手が、それをつかむ。
わずか3枚しかない議事録という名の紙。それでも3枚にまで増やした努力を認めてほしいと思うキョンだ。
「何か問題あるか?ちなみにそれは仮のものだ。今から修正するが」
一応いくつか発言というものをしていた数少ないメンバーだ。内容に文句があるなら今のうちに言ってくれといわんばかりに古泉を見上げる。
「別に問題はないですが」
「ならいいか?」
それがないと修正できない、と古泉の手から資料をとろうとする。
けれど、そんなキョンの動きは古泉の手によって止められていた。
「一つ聞いてもいいですか?」
左手でキョンの手を押さえて、そして右手に持っている紙を、パソコンのキーボードの上へと置く。
「貴方は、僕の名前をご存知ですか?」
「・・・・は?」
突然の質問。
にっこりと笑顔で発されたそれに、思わず頭にクエスチョンマークが浮かぶ。
「名前って・・・・古泉、だろう?」
もしかして漢字変換を間違えたか?と思い、見てみる。けれど、特に間違ってはいない。
「というか、離せ」
つかまれたままだったことに気づき、慌てて古泉の手を振り払う。
議事録の表紙には、タイトルと参加者の名前、そして議題が記されている。
「間違ってないだろう?何が言いたいんだ?」
「いえ、ちょっと気になったものですから」
柔らかい笑顔。
女性なら多分、この笑顔に騙されるだろうなと思えるほど様になっている笑顔は、キョンにとっては何か下心ありの変な企みをしている笑顔にしか見えない。
「古泉、という名前はご存知だと思いますが、下の名前は知っていらっしゃるのかと」

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