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□道を示す者
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「ソルジャー、あなたにこれを」
「これは?」
「私にはもう、必要のないものですから」
フィシスに手渡されたのは、2枚のタロットカード。
怯える彼女から、死のカードと共にミュウの未来を見る能力を奪ったのは僕で。
きっとそれが、彼女の悲しみを和らげるだろうと、そう思ってのことだったけれど。
ミュウとしての能力がなくなっても、彼女の占いの力は衰えたわけではないから。
その行為は、ほんの一時のその場しのぎにしかならなかったのかもしれない。
彼女を大事にしたい。
僕のせいで彼女を泣かせたくはなかった。
彼女はもう、出会った頃の少女ではないのかもしれない。
いつか人間とミュウの間で地球を抱く、女神になって欲しい。
そう願う僕に答えようとするかのように、彼女の心の奥は強くなっていく。
けれどその心を乱す唯一の存在を、僕はずっと前から知っていた。
彼女と同じように生まれた、彼に。
惹かれない訳はなかったのだ。

「このカードは、ジョミーに」
手の中にあるタロットカードは『法皇』と『星』。
なんとなく、その2枚を渡された意味がわからないわけではなかったから。
少しだけ苦笑しながら、『星』のカードを彼女へ返す。
「ソルジャー・・・」
理想のために努力すれば願いは叶う。
希望を表すそのカードは、きっと僕よりもジョミーにふさわしい。
僕の役割は、それを後押しする精神的な指導者であればそれでいい。
この『法皇』のように。
「大丈夫。ありがとう、これで十分だ」
いつか、僕がいなくなっても。
示した道を正しく歩いていってくれる。そう確信しているから。
ジョミーへ示すそのカードが逆を向いてしまわない様に。
障害を取り除く役目は、きっと僕だけの使命だ。
それに本当は、ずっと聞こえている声がある。
あの時からずっと、鳴り止まない。
呼ばれている。
そう思う。きっとそれは間違っていなくて。
そして何より、僕自身がきっと。
もう一度、会って確かめたかったのかもしれない。
僕の女神と記憶を共にする、あの男に。
僕の目指す地球の記憶を持つ、あの男に。
「待ってください」
悲痛な彼女の声が、聞こえないわけではなかったけれど。
受け取ったカードを胸にしまって、そのまま僕は踵を返した。

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