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□通り雨
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突然降り出した雨。
出会いも突然だった。
すぐにやむだろうと予測した通り雨。
とりあえずひときわ大きな目に付いた木の陰で雨を凌ぐ。
「・・・・・?」
服についた水滴や、多少含んでしまった水分を払い落とそうとして、ふと視線を落とした先。
『・・・・・ギ』
かわいらしく、というべきか。
自分を見上げている瞳。
灰色の空と、降り続く雨と。
殺風景な景色の中で、そこだけが切り離された空間のように現実味がない。
真っ白の体と真紅の瞳を持つそれは、まっすぐに彼を見続けていた。
「竜、か?」
とりあえず、しゃがみこんでみる。
それでも目線が同じになることはないのだが、それでも少しは視線が近づく。
『ギ?』
つぶらな瞳。
顔のほとんどの面積を占めているような大きな瞳が、何か言いたげに彼を見ている。
「・・・・うん、分からない」
人語じゃなければ解せるはずがない。
しゃがみこんだ、自分の膝に肘をついて、そしてため息をつく。
肩に乗せたらちょうど良いぐらいの大きさの竜。
子供なのか大人なのかは分からないが。
けれど、逃げる様子もなく、明らかに意思を持って彼を見ている。
「えーっと・・・・」
頭に生えている小さな角。その角の間に手を入れて、よしよしと撫でてみる。
『ギー・・・・』
気持ちよさそうに閉じられる瞳。
予想外に手触りのいい肌と、甘えるような仕草。
人慣れしていることに正直驚きを隠せなかった。
『竜』自体は、この世界では珍しいものではない。
けれど、特定の場所に生息しているか、王宮の竜舎などで飼われているかが普通なのだ。
こんなはぐれて一人でいる竜というのは、珍しいもの以外ではない。
見つけた人によっては、そのまま売りに出されたりされてしまうだろう。
「お前、一人か?仲間は?」
『ギ?』
パチリと目が開けられる。
『ギー・・・・・ギギギ?』
「やっぱ分からないよなぁ」
何かを伝えているということは、視線から分かった。
どういう意図でここにいるのかは分からない。
というより、自分がこの木陰に入った時、この竜がいたのかといわれると、それ自体が疑問でもあった。

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