本2(満)
□続#自転車第六話
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♭恰次
今日は練習室がとれなかったので、直で早耶の家に来た。
「どうぞ。」
「おじゃましまーす。」
早耶が玄関の鍵を開け、中に入った。
「少し何か飲……む?」
「うん。」
敬語をなんとか直そうと最近頑張っているらしく、たまに語尾がつまる。
「今日は何やる?」
「そうですねー、この二ページ目の合わせるイメージがつかみにくいので、やりたいです。」
で、別のこと、特に音楽のことを考えると、元に戻っていて、俺は苦笑した。
「え?何か私、変なこと言いました?」
「いや、言葉遣いがさ、戻ってるって思って。」
「あっ……もー。癖になっちゃったみたい。」
悔しがっているのをなだめてから、練習を始めた。
相変わらずこの家の練習室は響きがいい。
ロングトーンをしていても苦じゃない。
と、早耶が同じメロディーを何度も何度も弾いているのが耳に入った。
「どうかしたの?」
「指使いが……どうしたらいいんだろ。」
見れば、確かにやや危なっかしい。
楽譜をよく確認して、身をかがめた。
「こう弾けばいいんじゃない?」
で、気付けば大接近してたわけで。
「あ、ごめんっ。」
「えっ。何かすいません。」
いつもは大丈夫なんだけど、こういう時は何だか恥ずかしくなる。
「あのー、よく見てなかったのでもう一回いいですか?」
「あ、うん。」
ちゃんと落ち着いて弾けた。
早耶も理解したみたいだ。
まったく……20にまでなって何でこんな少年のような気持ちになってるんだか。