本2(満)
□自転車五話
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ピアノの前に座ると
心が落ちつく。
ピアノに手を置くと
何も聞こえなくなる。
ピアノを弾き始めると
何も考えない。
気がつけば、お昼の時間はとっくに回っていた。
「はっ・・・私、どれくらい弾いてました?」
「んーと、1時間弱?」
「えっあっ、すいません。1人で・・・。」
「いや、別に、オレが頼んだんだし。」
「こ・・大沢さんもピアノ弾けるんですか?」
私は恰次さんって言いそうになって、慌てて言い直した。
「呼びやすいんなら恰次でもいいよ。
オレは、ピアノはあまり弾けないな。でも・・。」
恰次さんは、細長いケースを開けた。
中から出てきたのは、フルートだった。
「フルート、吹くんですか?」
「うん・・男のオレが吹くって変かな?」
私は首を横に振った。
「吹こうか?」
「はい。あ、お願いします。」
恰次さんは、真面目だねって笑うと、フルートに唇を当てた。