本2(満)

□第七話
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天界。


アルルは戸惑っていた。

久しぶりだったからではない。

妙に物足りないのだ。


本当は、今まで大天使になるために頑張ってきたのだから、また帰ってくることができて嬉しいはずなのに。


処罰はまだ言い渡されていない。

それが怖いのか?


違う。



この喪失感は何?



たまに、一緒に下界に降りていた天使を見かけた。

お互いにぎこちなく会釈をした。


何事もなく、平穏に過ぎていく。


あの堕天使は今頃、狭間の谷で嘆いているだろうか?


久しぶりの学校からの眺め。

様々な天使たちがおしゃべりをして、楽しそうに過ごしている。


そこでハッと気がついた。


自分は、下界を懐かしんでいるのではないか?

そのとたん、色々な顔が浮かび上がってきた。

特に、奈々の笑顔が焼き付いて離れなくなってしまった。

でも、もう戻れないのだ。


だって、皆忘れているのだから。


そして、もう一つ思った。


他の人たちはどうだろう。


皆、下界を恋しく思っているだろうか。


アルルは想像した。


それから、決心した。


アルルは、その日の午後の授業を休んだ。










緊張して足を踏み入れると、そこは素晴らしい花園だった。

思わず色々な花に見とれていたら、先に声をかけられた。

「どうしたかな、アルル。
今は授業中じゃないかね。」

アルルは慌てて神様にお辞儀した。

「申し訳ありません。実は、どうしてもお願いしたいことがありまして……」

「言ってみなさい。」

神様の優しい眼差しに押されるように、アルルは考えていたことを話した。

「下界から帰ってきた時、私は満足しすぎていました。
ですが、フッと振り返ってみると、下界での日々が懐かしいのです。
私はこうなることを恐れて、なるべく自分の感情を抑えるようにしてきました。
しかし、実際には、奈々や大悟、建、誠、他にも多くの人間と触れ合い、どうも……下界の方が居心地が良くなってしまったのです。
そして、それはきっと他の下界に降りた天使たちも同じ。
また、居心地の良い世界から引き離したのは、私なのです。
私があの時緑に協力していれば、皆はあのまま普通に暮らしていけたはずなんです。
だから、お願いします!
皆に処罰を課さないで下さい!
そして、望んでいる人がいれば、下界に帰してあげて下さい!
全て私の責任なんです、だから………」


「もうよい。」

アルルは顔を上げた。

神様は微笑みながらそっとアルルの頭に手を乗せた。

「そんなに自分をせめるでない。
仮に、お前が緑に協力し、戦争が起こったら、今までに下界に行った天使の数より多くの者が悲しみ、傷つく。
何より、今度はアルルが堕天使となってしまうではないか。」

「でも………」

「それに、誰もお前のことを責めてはおらんぞ。むしろ………皆自分にこそ責任があると言い張っておる。不思議なものよのぉ。」

神様はしゃがむと、アルルの目をまっすぐに見つめた。

「処罰は誰にも課さない。
望むのなら、下界にも帰す。
だから、アルルも、自分が本当に行きたい所へお行き。」

アルルの顔に、ゆっくりと微笑みが広がった。
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